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この子怖い


 果たして、覚悟を決めて入った教室には一人の女生徒がいた。


 何やら書き物をしているみたいだけど、俯きながら一人でぶつぶつ言ってる姿は、正直ちょっと怖い。


 あれ人だよね? 剥き出しの悪霊とかじゃないよね?


「どうせ私はバカだし、やることなすこと上手くいかないし、お父さんにも期待されないダメな娘で男の子にだってモテなかったけどでもこれが私の精一杯だし、せめて頑張った分のご褒美は欲しいって言うか、私の運気はむしろこれからの人生が本番……ってなに? え、誰?」


 後ろ向きな愚痴かと思えば前向きな……愚痴?


 なんだか愉快な人なのかなと思った途端、音も出していないのに前触れなく唐突に、彼女がこちらを振り向いた。


 何今のタイミング。っていうかうわ、気付かれた。どうしよう。


 いやどうしようじゃない。私は謝罪に来たんだ。あ、その前にこの人に挨拶しなきゃ。一応初対面になる……初対面だよね?


「あ、あの……」


 やばい、また緊張してきた。


 さっきは負のオーラ撒き散らしてて悪霊と見間違えたけど、よく見れば普通の女の子だ。


 言っちゃなんだけど、美人ばかりのこの学院では浮くくらいの普通さ。つまり私にとっては安心出来る顔とも言える。って我ながら失礼だな。


 謝りに来たはずなのに私ってば相変わらずだなと思いもするけど、でもこれが平常運転の証とも言える。失礼こそ私。もちろん表には出さないけどね。


 乙女とは本心を心の内に隠すものなのだ。ってことにしておこう、うん。


 それにしてもこの子、やたら目ヂカラあるっていうか、なんでこんな凝視してくるんだ。

 ちょっと口が震えてとちっちゃっただけでそんなに見なくてもいいじゃない? 見開いた目がちょっぴし怖いし。


 とりあえず乙女的に微笑み返してみたりして。


 笑って誤魔化すとも言う。


「綺麗な、子……」


 あまりにもジーッと見つめられるものだから思わず乙女スマイルを浮かべてみたが、どうやら正解だったらしい。

 面白ネガティブの普通子ちゃんは私の顔に見蕩れたようにポーっとしている。


 いやん、そんな素っぽい反応されたらソフィアさん照れちゃいますよう。


 と思っていられたのも束の間。


「え? は? はあぁぁぁぁあああ!!?」


「えっ!? なに、なんですか!?」


 なんか急に叫びだしたんですけど!! 何この人超怖い!


 やっぱり悪霊に取り憑かれてるんじゃないの!? 本物のソフィアさんの魂は悪霊になっちゃったの!? うわああごめんなさい私が遅れたせいでえぇぇ!!


 びっくりビクビクしている内に、彼女はなんと立ち上がり、こちらに向かって来るではないか!! やめて来ないでェ!!


 ――でも、悪霊になったソフィアさんに殺されることが、贖罪になるのなら……。


 なんて考えが頭の隅をちょっぴり()ぎった隙にガシィッと肩を掴まれて逃げられないように固定されてたよね。

 ごめん本物のソフィアさん。私覚悟が足りなかったっぽい。


 死ぬ覚悟はしてても本日二度目のホラー体験する覚悟は流石にしてなかったかなぁ。実は知らないうちに学院もお化け屋敷になってたのかな、なんて。あはは。


 有り体に言ってちょー怖い。

 逃げてもいいかなこれ?


 もはや涙目で現状の打開策を練っていると、悪霊に取り憑かれた女の子は私を食い殺すためか大口を開けた。わぁ見事な犬歯ぃ……。


「あなた!! こんなかわいいのになんでもできる万能な才能まで持ってるっての!? なにそれずるいいぃぃぃいいい!!!」


「え、……えぇぇ?」


 な……なに? ズルい? あれ、私を食べようとしたんじゃないの?


 見た目や才能に関して羨まれることは初めてではないけど、こんなに真っ直ぐに面と向かって言われたのは初めてだ。


 もしかしてこの人……単に感情表現が豊かなだけの、普通の人?


「ずるい。ずるいずるいずるい。ずるいいぃぃぃ……」


 あ、また悪霊成分出てきた。


妖怪ずるいずるい女。

愚痴……?っぽい何かを呟きながら獲物がかかるのを待ち、迂闊に近付いた人に「ずるいずるい!」と呪詛を吐きながらしなだれかかる。

鬱陶しいだけで害はない。

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