いざ、邂逅へ
ふふ。ふふふのふ。
どうしよう、思い出し笑いが止まらん。
普段通りなリンゼちゃんのおかげでフラットな気持ちになれたし、さーていざ学院に……と家を出ようとしたところで、お兄様にみつかっちゃってね。
自分では平静を装えてたと思ったのに、心配そうに「大丈夫かい?」なんて優しい言葉を掛けて頂いちゃったのですよーう。
やー、ダメだね! お兄様、最高すぎだね!
なんかそれで泣きそうになっちゃって、でもそんなことしたら決意が鈍りそうな気がして、咄嗟に「大丈夫ですから!」って突っぱねちゃったのね。
すぐに「私は心配して下さったお兄様になんてことを!」って謝ったんだけど、今までお兄様にそんな態度取ったことなかったからすごく驚かれて。
でね! その後が凄いんだから!
私の頭にぽんと手を乗せて「何も気にすることは無いよ。ソフィアの心の憂いが晴れたら、また抱きしめてあげるから」って!! きゃー! お兄様素敵過ぎますぅ! 抱いて!! ってなったのね。
まぁそんで妄想大爆発してる間にお兄様いなくなってたんだけど。
自分の代わりとばかりにフェルとエッテを残してくれるお兄様の気遣いにまた感動しつつ学院まで来たわけさ。
私のお兄様完璧過ぎない? こんなん絶対惚れるでしょ。
「キュゥウ〜」
「キュイキュイ〜」
この子たちもなーんか普段より甘えてくるし。
もー……困っちゃうよね。
これから人生で一番の謝罪しに行くってのに、こんなに癒されちゃってていいのかねー。
「うりうり。うーりうりうり」
「キュッ、キュゥ〜♪」
「キュイ〜♪」
あー和む。しあわせ〜。
普段の学院と違って人が少ないからフェルたちと戯れてても咎められることもないし、知ってる場所のはずなのになーんか変な気分。
休日の学院ってあんまり来ることないけどこんな感じなんだねー。
いつもは人で溢れる廊下に一人分の足音だけが反響するのを聴きながら、ゆっくりと目的地に向かって歩く。
……そういえば、ソフィアさんの魂って今は誰かの中にいるんだよね?
学院ってことは学生の誰かかとも思ったけど、休日の学院にいることを考えると先生とかの線が濃厚なのかな? もしかしたら知り合いってこともありうるのかも。
知り合いだったら説明した方がいいのかなー。でもなー。
ソフィアさんの魂はまだ眠ってるんだろうし、だったら宿ってる肉体の方を眠らせてソフィアさんの魂だけ覚醒させてお話しが出来るようにするとか……やっぱりそういう方向になるよね。
「貴方に取り憑いている魂さんと話がしたいので体を貸して貰えませんか?」なんて説明したって快く同意してくれる人がいるとは思えないし、良くて私の頭がおかしいと思われて終わりそう。
申し訳ないけど眠らせるのが手っ取り早いよね。
眠った魂に働きかけるのは魔力の流れを補強してあげるだけで良さそうだし、あとはー、えーと、もしもソフィアさんの魂が記憶を失ってたら、とかも考えられるパターンではあるけど……。
ま、そんなこと言い出したらキリないし、全部流れでいいでしょ!
「……さて」
……楽しい時間は進むのが早いって言うけど、楽しくなくても時が早く感じることはあるよね。
今がまさにそんな感じ。
延々と続く廊下をずっと歩き続けてきたような、瞬きひとつの間にここまで辿り着いたような、不思議な感覚。
目的地にあったのは普段授業を受けるのと変わらないタイプの教室で幸い中にいるのは一人だけみたいだ。
教室と廊下を隔てる何の変哲のないただの扉が、今は王妃様と会う時に通った重厚で荘厳な扉に匹敵する威圧感を放っているようにすら感じられる。
この扉の先に進めば後戻りはできない。
確実に、私の運命が変わる。
それでも。
「――行きますかっ」
私は勢いよく、その扉を開いた。
フェルたちまで味方につけたロランドの対ソフィア専用異常察知能力が留まるところを知らない。




