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終わらせる為ではなく


 リンゼちゃんから聞き出した魂の見分け方を踏まえて臨んだ二度目の探知魔法により、本物のソフィアさんはあっけないほど簡単に見つかった。


 反応が示した位置は、私が普段から通っている学院。


「学院? 本物のソフィアさんは学院にいる?」


 思ったよりも近い……というべきだろうか。


 彼女と会った後、私はどうなるのか。


 この肉体を明け渡す可能性も考え、家族に最期の挨拶をするべきかと悩んで……やめた。


 唐突に人生を奪われた彼女に対して、私だけが万全に備えるのはなんだかズルい気がしたのだ。


「今から行くの?」


「うん。早い方が、いいから」


 リンゼちゃんに返す言葉が上擦っているのが分かる。


 これから人生を終わらせに行くと思うと、やはり怖い。


 それでも、これは私が責任を取らなくてはならない問題だ。

 私の意思で終わらせられるなら、それはきっと上等な終わり方だろうと思う。


 少なくとも、理不尽に奪われる終わりよりは、数段良い。


「そう」


 リンゼちゃんも、この時ばかりは寂しそうに……してくれたらいいのになぁ。


 相変わらずクールだ。クールすぎる。

 思えば私はこの子の笑顔を見た事がないんじゃなかろうか。


 アンジェの妹だけあって素材はいいのだし、笑えば絶対にかわいいと思うんだけど……ああ、この子の笑顔を見ないまま逝くのだけが心残りだ。


「リンゼちゃんって笑えばきっとかわいいと思うんだけど、普段から他の人にもそんな感じなの?」


 これが最期になるかもしれないからと、この子の今後が心配になったのだろうか。


 つい素朴な疑問を投げかけると、リンゼちゃんはいつだって真っ直ぐに私を見据えるその怜悧な瞳を伏せた。その、次の瞬間。


「いってらっしゃいませ、ソフィア様っ。お戻りになられるのをお待ちしておりますっ」


 年相応の高い声で、とびきりかわいらしい笑顔を向けてくれる美少女がそこにはいた。


 誰だこれ。


「……アイリス様相手には、失礼にならない程度には子供らしく対応してるわ。でも私が女神の転生体であると知っているあなたには必要ないでしょう」


 必要ないわけあるか。


 え、なに今のリンゼちゃんかわいくない? お母様いつもあんなこと言ってもらってたわけ??


 私が出る時なんて「じゃあ部屋の掃除は済ませておくわね」とか完全に業務報告でしかない言葉しかくれないのに、その裏でお母様にはあんな舌っ足らずな感じで「寂しいけど、リンゼがんばるっ(うるうる)」みたいな対応してたわけ? なにそれ雇用者の特権? いくら出せば私にもしてくれるの?


「私も今のがいい」


「え? 必要ないでしょう」


「今のがいい」


「……私の本性を知っているのに?」


「今のがいい」


 知っているのに、です。


 私ね、美少女には周りの人達の目を楽しませる義務があると思うんだ。


 小難しい言葉を並べたてるいつもの無表情なリンゼちゃんも脳内フィルターを通せば精一杯大人ぶってる愛らしい少女に見えはするけど、それにも限界があるって言うか、たまには別の顔も見たいと申しますか。

 その点さっきのリンゼちゃんは最高だった。


 かわいい女の子が自分の魅力を理解した上で、媚びる。


 そういえばありそうでなかったよね。

 マーレの妹のノアちゃんは媚びると言うよりは甘えてる感じだし、王子様の弟であるアーサーくんは媚びる前に命令してくる。


 リンゼちゃんは中身が子供じゃないせいか、はたまた普段私に見せる落ち着いた雰囲気とは違うせいか、かわいく振舞ってる時のあざとさが凄い。羞恥心ないのかってくらい媚び方が半端ない。女神になる前はアキバでメイドしてたんじゃないかってくらいの完成度だった。


 ……いや、媚び方と言うと語弊があるかな。


 リンゼちゃんは多分「子供は子供らしく振る舞うのが自然」くらいにしか思ってない。だから躊躇い無く子供を演じられるのだろう。


 子供らしく振る舞うのが苦にならないというのなら、その姿は是非とも私に披露して欲しい。し続けて欲しい。


「私絶対帰ってくることにしたから」


 素直に肉体明け渡して消える覚悟とかしてたけど、やーめた。


 だってかわいい一面が判明したリンゼちゃんの成長をこれからも見守りたいし、お父様とお母様の面白そうな過去だってまだ全部暴けてないし、アドラスさんへのお仕置きだって色々考えてたのにまだ決行してないんだから。


「……? ここはあなたの家なのだから、当然でしょう?」


 リンゼちゃんは本当に不思議そうに首を傾げた。


 その瞳はやっぱりどこまでも真っ直ぐで、私が帰ってくることを微塵も疑ってなんかいないのが伝わってくる。


 リンゼちゃんだって事情は知ってるはずなのに。その気遣いが……。……?


 ……気遣い、するかな? リンゼちゃんが?

 むしろ女神様から今回の結末まで聞いてるとかの方がありそうな気がしてきた。


 もしも私が無事に帰ってくることを既に知っていたとしたら、勝手に悲壮感出してる私はさぞかし面白い見世物でしょーね。


 なんか肩の力抜けた。


「そうだったね。じゃあいってきまーす」


 緊張はまだしてるけど、うん。


 このくらいの気軽さで行くのが私らしいかもね。




 ――ソフィアさんとの話し合いは、きっと悪い結果にはならない。


 そんな気がした。


心残りがなくなって良かったね!

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