答えはすぐそこに
相変わらず万能なアイテムボックスにより落ち着いたところで、魂の検証を始めようと思う。
最初は探知にかかった魂のあまりの多さにびっくりもしたけど、考え方を変えればこれは検証のし放題とも言えるわけで。
そうさ、わからないから怖いんだ。
おばけも解明してしまえば怖くなんてなくなるはず!
研究し尽くしてその正体を暴き、見ることも触れることも出来ないというほぼ無敵状態なおばけへの対抗手段を必ずや見つけ出すのだ! ……じゃなかった。
ソフィアさんの魂を探す足がかりにするのだ!
「もしかして今、魂をアイテムボックスの中に取り込んだの?」
危うく目的を忘れかけていた私が原点に立ち戻ったところで、リンゼちゃんが先程まで魂がくっついていた足を見つめながら問いかけてきた。
魂は見えなくともあからさまな行動から何をしたかはお見通しらしい。
「うん。くっついてるって分かると気になるからね」
「それ後で戻しておいてね」
すげなく告げられた言葉に、リンゼちゃんに憑いてるのも取ろうか? と差し出しかけていた手が行き場を失う。
……が、がんばって取ったのに!!
「魂くっつけておかないとダメなの?」
うぅ、そりゃそうか。この世に無駄なことなんてあんまりないもんね。
人間の体に微生物がたくさんいるのだって気持ち悪がらせる為じゃなくて、それが自然な状態だからなんだよね。
ただなんとなく気持ちが悪いってだけでなんでもかんでも排除してたら、外部の刺激に対する免疫が育たなくて、ちょっとした事にもすごく打たれ弱くなる深窓の令嬢みたいになっちゃうかもしれない。病弱で可憐で色白で清楚な上に美少女だなんて男の子の妄想を詰め込んだようなスーパーお嬢様になっちゃうかもしれない。
……それもアリかもと少しだけ思っちゃったけど、いくら私がインドア派とはいえ娯楽の少ないここで寝たきりは辛いものがある。病弱だとペットも禁止されそうだし。
仕方ない、また魂くっつけるか。
アイテムボックスを開いて振ると、探知魔法には胞子のようにゆら〜っと出てきた魂が二つ、隣合うように机の上に並んだことが示されていた。うーむ、相変わらず見えない。
なんとなく出しちゃったけど、これくっつける場所に直接出さないとダメだったよね。
仕方ない、また戻すかと失敗を悟られぬよう素知らぬ顔で動こうとすると、リンゼちゃんが机の上を見ながら言った。
「この世界にあれば問題ないわ。あなたのアイテムボックスの中は、別世界のようなものだから」
あ、そうなの。じゃあこのままでいいか。
リンゼちゃんと二人、そのままなんとなく魂を観察する。
……非物質、形はない。
とはいえ存在はしている。
この場所にあると示されるくらいだから、大きさも定まっているように感じる。
あらゆる角度から確認すれば「ここに魂の反応があるよ!」と指し示される範囲はどう考えてもピンポン玉くらいに収まっている。だというのに、魂の形を問えば「形はないよ!」と返される。うーむ謎だ。
「あ」
リンゼちゃんの声にうんうんと悩ませていた顔を上げれば、机の上に並んでいた魂の片割れがいつの間にか移動していて縁から落ちそうになっていた。あ、落ちた。
何故動く。そして非物質のくせに何故物質である机から落ちるんだ。浮けよ。いや、そもそも依存するな。机の上とか乗るな透過すべきでしょ。
そうだ、そうじゃん。なんで今まで気づかなかったんだろ。
そもそも人間や壁にくっつくというのがおかしい。
魂が本当に物質の影響を受けないのなら、そんな現象は起こるはずが無い。
物質の影響は、受ける。
ただ非物質であるから見えないだけで、その影響は――。
そこまで考えたところで違和感に気付く。
あれ? そういえば。
「……さっきリンゼちゃん、『あ』って言ったよね?」
「ええ」
机の上から魂が落ちそうになって、思わず声を上げる。
ありえなくもないよね。
もしも魂が視えていたならの話だけど。
「リンゼちゃん、魂見えないんじゃなかったの?」
「見えないわよ」
そうだね。リンゼちゃんはこーゆー子だった。
「魂は見えないけど、どこにあるのかは分かる?」
「ええ」
「でも本物のソフィアの魂が今何処にあるのかは、分からない」
「ええ」
「なら魂の見分け方とか、分かるー?」
「ええ」
分かるんかーい。
ええー、まぁーじでぇー? うけるー。
魂の見分け方、調べるまでもなく判明したみたいです。
なんで言わなかったかって?
そんなの、聞かれなかったからに決まっているじゃありませんか。




