私の、正体
――考えなかったわけじゃない。
私が赤子になっていると認識した時。
転生の可能性と一緒に、この状態が憑依である可能性も確かに考えたはずだ。
その考えを却下したのは、なんでだった?
幼い頃の私は、なぜその結論に至った?
思い出せ、考えろ。
あれは、思考が。赤ちゃんの私がいて。意識が。
そうだ、意識だ。私の中に別の存在を感じたことなんてなかった。だから。
――だから、なかったことにした。初めから、いなかったと決めつけた。
望めば叶う、魔法の才能溢れるこの身体で。
私が、ソフィア・メルクリスは存在しなかったと――。
「……つまり、私が殺した?」
視界がボヤける。
胸が、痛い。
気が付けば、無意識に胸元を握りしめていたらしい。服の上から爪を立てていたようだ。
全て魔法でなんとかなると、甘く考えていた。
時間遡行。過去の改変。
多くとも数年も戻ればどうにでもなると思っていた。
だが、私という存在が産まれる前にまで戻るとなると、それは。
その時、私は――。
「落ち着きなさい、死んでいないから。なんであなたはそう物騒なの」
リンゼちゃんに肩を揺さぶられて我に返った。
え? あ、そう? そうなの? いやー良かった、なんだそうかぁ。
ごめんなさい、最悪の想定する癖がついてるみたいで。
とはいえ、えー……。知らなかったとはいえ私はなんということを。
今心の中ぐっちゃぐちゃなんだけどどうしたらいいのこれ?
私生きてていいの? 死んで詫びるべきじゃない? いやでも、別世界で死んだ人間がもう一回死ぬくらいじゃなんの罰にもならないか? あ、そうか、その前に本物のソフィアさんの魂を見つけて――。
――見つけて、それから?
自分の身体を見下ろす。
薄い胸。は今はいいとして……。
子供らしい丸みを帯びた、健康的な肢体。
腰まで伸びた銀の髪は光にかざすとキラキラと反射して、褒められる度に嬉しくなった。
手指も綺麗な形。
肌もさらりとしていて、手はちょっとぷっくりしているけど、自分で触っても気持ちのいい感触を返してきて。
長いまつげも透き通る紫の瞳も、大好きだった。鏡を見るのが大好きになった。
小顔で、美人で、かわいくて。
こんなに綺麗な子が、私だなんて。本当に、夢を見ているみたいだった。
ずっと、夢みたいだって、思っていたんだ。
――ああ、そうか。
心がストンと、居場所を見つけたのがわかった。
綺麗なのは当たり前だ。だって、これは私じゃない。私はソフィアさんの身体を乗っ取っていただけなのだから。
――なら、本当の私は?
「――あは」
そんなの、決まってる。
他人に取り憑いて、身体を乗っ取るなんて、そんなの。
――ただの悪霊じゃないか。
そう認識した途端、体の力が抜けた。
床にぶつかる体に痛みが走る。
痛み。防護の魔法が切れたのか。いや、この魔力だって本当は――。
それが、最期の記憶だった。
「……だから知らない方がいいと言ったのに」




