そこまで外道じゃないよ!
リンゼちゃんに唐突に「他人の人生を潰すことに抵抗は無い?」と聞かれました。
こんなびっくりな質問されたの初めてだよ。
他人の人生を潰す?
潰すとはまた穏やかじゃないな。
それってあれでしょ、自殺したくなるほど精神を追い込むとか、一生物のトラウマを植え付けるとか、社会的な死に追いやって陽の下を歩けなくするとかそーゆーアレでしょ。
私ってそんな非道な人間に見えます?? これでもまっとーな人間のつもりなんですけど?
ひと目でわかる不満顔を作り否定すると、リンゼちゃんは「そう」と軽く受け流した。
この子私が「実は今まで隠していたが、私の正体は前世で数々の犯罪を犯した大罪人なのだあ! この世界を滅ぼされたくなければ大人しく言うことを聞けぇ!」とか言ってもふつーに「そう」って返しそう。
反応が淡白なのって寂しいんだからね。
これはもう、相手を気分良くさせる受け答えというものを徹底的に教えこまねばなるまいな。
そんなリンゼちゃん育成計画を練っていたが、彼女の「そう」には続きがあったらしい。
「なら知らない方がいいわ」
ふーんそっかー。なら知らないままで……ってならない。ならないよ?
だって、え? やめてよ。マジで?
それもう言ってるも同然じゃん。
「あなた今」「他人の人生を潰すことに抵抗は」「(抵抗がある)なら知らない方がいいわ」って、それどう考えても事後じゃん。やっちゃった後じゃん。誰が? 私が。
………………誰の人生を潰したって?
――知らない方がいいこともある。
そんなセリフはどこで聞いたのだったか。
全てを忘れて、気ままに、今までの生活に戻れればそれが最良なのかもしれない。
でもね。
私ってほら、自分で言うのもなんだけど頭いいじゃん?
記憶力も抜群で数年前の些細な出来事すら覚えてたりするのに、一度気になった「誰かの人生を潰したかもしれない」なんて情報を忘れられるわけないよね。
それに一生モノの十字架とかそんな重そうなモノ背負う気なんてさらさらないんで。
むしろさっさと事実確認をして、もしもリンゼちゃんの言う通り、誰かの人生を潰したのが事実だとしたら。
その時はもう相手に謝り倒して、トラウマだろうと環境だろうと私の持てる全ての力を総動員して完璧にケアして、更にはその後の人生もバッチリサポート。
ソフィア印の終身保険で全ての悪意から完全に守ろうと思う。
んでんで、知らず他人の心を傷付けていたことを知り心を痛めたソフィアちゃんは、優しいお兄様に全てを話して癒されるのです。
……あれ? この計画完璧じゃない?
というか人生ってそもそも人と人との関わりあいで出来ていくものだし、どんな人生になろうが本来その人自身の責任でしかないよね。
潰そうと思ってもいない人との関わりあい程度で潰れるなら、それは遅かれ早かれ潰れそうっていうか……まあ、正直脆いのが悪い気もする。
でも私のせいでって言われるのは、私が嫌だから。
私が気分良く生きるために、少し手を出すだけで助けられるなら、助けたい。
それが偽らざる本心かな。
もちろん、魔法使えば大抵なんとかなるって大前提があっての話だけどね。
「で、私は誰の人生を潰したの?」
少しの覚悟を決めて、リンゼちゃんに問いただす。
うーむ。この質問、ヤダなぁ。
割り切ったつもりでも、心の奥がきゅうっと締め付けられる感じがする。
知らずに人を傷つけてたなんて、リンゼちゃんの勘違いならいいのになー。
――しかし、その祈りにも似た願いは女神様には届かず。
リンゼちゃんの小さな口が紡いだのは、予想だにしない人物の名前だった。
「あなたの中にはソフィア・メルクリスの魂がずっと眠っていたはずなのだけど……今はいないのよね」
ソフィア・メルクリス。
それは、私の――いや。
私の身体の持ち主の、名前だった。
「重い話題ヤダなぁ。万能魔法使えば大抵なんとかなるし、これ軽い話題にならないかなぁ」と思ってたのになんともならなかったソフィアさんはこちらです。
頑張れポジティブシンキング。




