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女神様の知恵袋


 リンゼちゃんのいる生活は刺激に溢れている。


 平穏な日々はとても良いものだけど、それも長く続けば退屈な毎日となる。つまらないのは良くない。


 日常に適度な刺激は必要であると、そう思っていた。


 だけど考えが甘かったのかもしれない。


 刺激は麻薬と同じだ。


 初めは少しの刺激で満足していても、似たようなことを繰り返すうち物足りなくなり、次第に大きな刺激を求めるようになる。


 危険。非日常。日常に戻れなくなるかもしれないというスリル。


 やめられない。とまらない。

 身体が刺激を求めて勝手に動き出すようになるのに、時間はかからなかった……。



 なーんてこともあるかもしれない。


 近頃の私はそのくらいリンゼちゃんと話すのが楽しい。


 物知りな元女神様はダメ元で聞いたことにも割かし答えてくれる、便利な知恵袋状態になっていた。



「へー。じゃあ空間拡張とか異空間に繋げるとかじゃなくて、むしろ移動系? 転送装置ってこと?」


「そうよ。空間を無理やり拡げるだなんて周囲にどんな影響が出るか分からない。単純に入口と出口を用意して『入口から入った物は出口から出てくる』という概念を固定すれば済む話でしょう」


「……それって空間飛び越えてない? それは周囲に影響が出るようなすごい魔法じゃないの?」


「出ないわよ。入口から入って出口から出る。とても当たり前のことでしょう? なぜ分からないの?」


 全然わからぬ。


 今はヘレナさんとの研究で行き詰まってた汎用性アイテムボックスについて何かいいアイデアはないかと聞いていたんだけど、どうにも当たり前に対する認識のズレが激しい。おかげで全然話が進まない。


 そりゃ私だって未来ロボットが様々なアイテムを披露する国民的アニメくらい見てたけど、ファンタジーはありえないからファンタジーなんですよ。


 扉一枚開けるだけで何処にでも行ける「どこにでもドア」は当たり前で、無限収納の「無限ポケット」は当たり前じゃない理由が分からん。その差はなんだ。どっちも同じアニメが出典じゃないか。


 そもそもいままで色んな魔法を生み出して使ってきた経験から言わせてもらえれば、「影響が出る」なんて思うから実際に影響が出ちゃうんじゃないかなーと思う。


 だって今までにも「時間停止」とか「過去の改変」みたいな禁呪系魔法を何回も使ったけど、特に何にも起きてないし。


 創世の女神様の言うことに間違いはない! と思い込むのは簡単だけど、この女神様思ったより人間ぽいというか、ズレてるというか……少なくとも万能じゃないのは伝わってきた。


 案外魔法の使い方に関しては私の方が才能あるんじゃないかな? なんてのはさすがに傲慢かな。

 でも私って調子乗った方が上手くいくこと多いんだよね。


「そういえば、女神の私が言っていたのだけれど」


 そしてリンゼちゃんは今日も平常運転。


 話題の唐突な転換は私もやるけど、でも私の場合は話題に飽きたとか、話を逸らしたいとか、少なくとも意識的に話題を変える。でもリンゼちゃんはそうじゃない。


 以前は思いついた時に口に出ちゃうからだと思ってたけどそれだけじゃなくて、一応今の話題よりも優先順位が高いから先に話そうとしてるだけ……かもしれないことに最近気付いた。


 正直この推測に自信はない。ただの気のせいかもしれない。


 単に「一定時間返事がなかった場合その話は終わり」と認識してるだけという可能性も十分有り得る。リンゼちゃんの会話ってどこか事務的だし。


「あなた今、…………あっ」


 え、なに? また新しいパターン? 変なとこで止めないで、ちょー気になる。


「なになに? なんでも言っていいよ」


「少し待って」


 本当に新しいパターンだ。


 いつもだったら世界の秘密的な重大な内容でもサラリと口にするリンゼちゃんが、一体どんな内容なら躊躇(ためら)うというのか。

 気になる止め方されたけど、聞くのがちょっと怖い。


 リンゼちゃんは一人で考えを纏めるようにあごに指を置いて黙り込んでたけど、(しばら)くすると軽く頷いて顔を上げた。どうやら話す内容が定まったらしい。


 そして、いつもと変わらない淡々とした口調で、なんでもない事のように言った。


「ごめんなさい、順番を間違えたわ。あなた、他人の人生を潰すことに抵抗は無い?」


「無いわけないでしょ」


 なんてこと言うんだ。


 これだからリンゼちゃんは油断できない。

 本当に予想外過ぎて飽きないというか、突拍子が無さ過ぎて新鮮というか。


 少しは手加減してくれてもいいんだよ?


おしゃべり好きなお嬢様に付き合うのが専属メイドの務めなら、独特な感性のメイドに振り回されるのも主人の務め。……なのかもしれない。

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