理想のメイド
今リンゼちゃんに着せてるミニスカメイド服は、過去私が着た時もとっても可愛かった。
でもメイドには見えなかった。
なんでだろうね? もはやお母様のお嬢様教育によって骨の髄までお嬢様になっちゃったのかな。笑い方とかもかなり矯正されたし。
それとも髪か。この美しすぎる銀髪か。
サラリとした感触も心地好い自慢のこの髪が高貴感を醸し出してしまうのか。
とにかく、私とミニスカメイドの組み合わせは感嘆の吐息がこぼれるほどの出来映えではあったけど、メイドじゃなかった。何かが違った。それはもうミニスカメイドじゃなかった。
ただのコスプレだった。
……まあ、私、メイドじゃないしね。
となれば当然、思うじゃないですか。
メイド服はメイドに着せればいいんじゃん?――と。
ここは異世界。私は貴族。身の回りにはメイドさんのいる生活。お膳立ては出来ている――かに思えた。
でも当時の一番幼いメイドでも私より歳上だったんだよね。
わざわざ作り直すわけにもいかないし、そもそも服を見せた時の反応が「前衛的で素敵ですね(絶対着たくないです)」と魔法を使わないでも副音声が聞こえるレベルで拒絶されてたから仕方無く諦めたのだ。無理強いする気は無かったからね。
しかし、リンゼちゃんが来た。
昔の私と体型が似ていて、おそらく私と同じ世界から来ていてミニスカ耐性があり、しかもメイドだったお姉ちゃんがいるパーフェクト新米メイドのリンゼちゃんがっ!
彼女には、似合う。間違いない。
その想像通り、二つ返事で衣装を受け取った彼女は見事な着こなしを見せてくれた。
各所にレースやフリルのあしらわれた装飾重視のデザイン。
若干肌色が眩しい露出多めの服装にも関わらず、恥ずかしがって隠すような真似はしない。
ただ主の傍で命令を待ち続ける。
彼女は従者だ。決して主役ではない。脇役でなければならない。
しかしひとたび動き出せば、事務的な動作のはずのそれが優雅なダンスの様に見る者の目を楽しませる。
私が求めたメイドの姿だった。
「私に足りなかったのはクールさか」
なるほど、勉強になる。
「落ち着きではないですか?」
……い、言うねえ、新人さん。
まだそんなに深い付き合いではないけど、向こうは女神の時に一方的に私の事見てたっぽくて割と親しい感じで話しかけてくれるんだよね。
……ってことは、指摘も全くの的外れってこともないんだろうな。ちょっとは自覚あるし。
そうか、落ち着きか。……落ち着きねえ。
………………つまりクールさが足りないってことだよね?
私がひとつの心理にたどりついた時、蒸らし終わって最後の一手間を加えられていた紅茶がスっと差し出された。
「はい、どうぞ。その辺にあったお茶です」
その辺て。
リンゼちゃんの言うその辺にあった紅茶は片付けてないんじゃなくて、リンゼちゃんが来るまでの暇つぶしにとブレンドの配合を試していただけなんだけど。
とはいえ、さすがは新人さんとはいえメイド長の審査を通った本職。
湯気を立てるカップから立ちのぼる香気は芳しく、心を穏やかにしてくれる。既に紅茶の入れ方は完璧なようだ。
お礼を言ってからもう一度香りを楽しみ、次いで味を確かめる。
うん。その辺にあったお茶美味しい。
「……リンゼちゃんって案外愉快な子だよね」
「そうですか」
相変わらず何を考えてるのか読めない子だけど。
リンゼちゃんのいる毎日を想像すると、それはきっと楽しいんだろうなと自然に笑みが浮かんだ。
もっと仲良くなれるといいな。
女神様を囲いました。




