「なんかエロかった」
そろそろ私の頭がおかしくなってきた。
体感時間ではもう一時間くらい余裕で経ってるのに、正確さがウリの脳内時計で確かめればまだ十分程度しか経っていないらしい。
……始業ベルが遠い。
そもそも何が嫌なのか、自己分析してみた。
恥ずかしい言葉が嫌だ。油断してお兄様に全力で甘えてた顔を大勢に見られたのが嫌だ。不躾で直接的な、有り体に言えば生々しい言葉が嫌だ。
そう、つまりは言葉。言い方の問題なんですってば。
まず「女の」って形容詞つけるのやめて。
「蕩けた」とか「愛」とかも恥ずかしいからやめて。
もっと他に言い方あるでしょ。「かわいかった」とか「お兄さんを信頼し切ってた」とかさ? いくらでもマイルドな言い方があるじゃないですか。
それにさ、ただ甘えてただけなのにみんな反応が過剰だと思うの。
みんなが言うほど「どこからどう見ても、女としての喜びを噛み締めてました!」って、そんな、ねえ。妹としての喜びならまだしも。
そりゃお兄様がピンチに駆け付けてくれるなんて素敵シチュエーションで多少感情が昂ってたかもしれないけど、それだけで「女の顔」やら「女の幸せ」って言われても納得しがたい。
せいぜいお兄ちゃん大好きな妹レベルじゃないかなぁ。
一般的な妹ならよくある一幕だよきっと。
そうだ、もしかしたらみんなが大袈裟に言ってるだけって線もあるんじゃないかな?
なぜか王子様派とお兄様派で対峙してるから話をちょっぴり誇張しちゃっただけで、実際はそこまでひどい顔じゃなかったとか。
ほら、声の大きい人達の意見だけじゃなくって、よーーーく耳を澄ませば他の人たちだって仲の良い人達と小声で囁きあってる。
その中で私の表情を見た感想っぽいものを抽出してみれば、それらは「幸せそう」とか「安心しきってる」とかそうそう、そういう健全な意見になる程度だよね?
断じて人様に見られて失笑を買うようなアホ面ではなかったはずだし猥褻物陳列罪に問われるような変顔でもなかった。
そうでしょう、そうでしょうとも!
だから男子諸君はね、「なぁ……」とか、「今の見た?」とかマジっぽい感じでひそひそ言うのやめようね。いくら大人なソフィアさんでも限界ってものがあるんでね。いやこっちは聞き耳立てるまでもなく聞こえてくるんですっていやもうホントに!
感想言い合うのは自由かもしれないけど、近くに女子もいる状況で「なんかエロかった」っておい誰だ今言ったの。遂に口に出したな? 男子だったぞ? あの辺か。
犯人の居場所に目星をつけて、さらに特定しようとして……やめた。
……あそこに集まってる男子は割とおちゃらけたグループだと思ってたけど、なんか、今はダメだ。今の目は、嫌だ。
自分が性的な目で見られてると自覚した途端、怖気が走った。
……うおぉ、前世で痴漢に遭って以来じゃないかこの感覚。
超久々で変な感動してるけど、ぜんっぜん嬉しくない!!
こーゆー時は楽しくなることを考えよう。ポジティブシンキングだ。
なにせ今の私は前世での自分と色々違うからね。
無力な前世では電車の時間をずらしたり触りづらくなるよう工夫したりと涙ぐましい努力をしつつも心の中で「痴漢死すべし!!」と唱えていたもんだけど、今の私ってほら、世界の破滅を願っただけで叶っちゃう可能性あるみたいだからね。
初めてエロい目で見られたくらいで同級生殺してたら将来ナイスバディに成長した時には人類に女しか残ってない未来になっちゃうかもしれない。あ、お兄様は残るからハーレムかな。それはそれで嫌だな。
ともかく、大人で素敵なお兄様とは違って、クラスメイトの諸君はその本性に野生を宿す男とはいえまだまだお子ちゃま。
それに対して私は同年代の中でも肉体的に幼い方とはいえ超絶美少女。しかも中身は大人。
内面から滲み出る妖艶な大人のフェロモンに当てられては、男として我慢が出来なくなるのも当然か。
つまり私の女としての魅力はとても隠し切れるものではなかったと、そういうことか。そういうことだな。ならば仕方が無いなっ!
子供のエロい視線くらい寛大な心で受け止めてやろう。
だって私、大人だからね!
実精神年齢〇〇歳でも心はいつまでも現役女子高生。の、つもり。本人は。
周りから見たらネムちゃんと大差ない。見た目も幼いしね。




