クラスの中心で羞恥に耐える
え? 恥ずかしさのあまり私が逃げ出す計画を立ててた?
あはは、まさかそんな。
リスクを考えられる私がそんな手段を選ぶわけないじゃないですか。
まず、この状況。
クラスの大半の女子が私の周囲に集まっているこの状況。
逃げられるわけないよね??
次に、逃げ出そうとして失敗した場合の想定。
なんで逃げるの? なにかやましい事でもあるの? と乙女の逞しい妄想力に燃料を注ぐ結果となり、それはもうないことからないことまで面白可笑しい仮説が飛び交うことになるだろう。そうなれば次の休み時間以降も熱が引かず持続する結果になりかねない。
つまるところ、私は大人しくしてるのが一番なのだ。
幸いなことに私に話を振る人はいない。
話の流れ次第では口を挟んだ方がいいだろうけど、このままの流れなら存在感を薄くして始業までやり過ごせれば私の勝ちと言えるだろう。
……私、何と戦ってるんだろうね。
「でもロランド様とソフィアさんはご兄妹なのですから。いつかはお相手が必要になるでしょう?」
「だからってその相手がヒースクリフ様に決まった訳でもないでしょ。あの蕩けた顔がヒースクリフ様に出せるとは思えないけど?」
話の内容はなぜか私の結婚相手として王子様が相応しいかにシフトしたようだ。
いいんだけどさ、本人無視して議論してくれるのは正直楽で助かるんだけどさ。
さっきの最上格兄妹ってのは意味わかんないなりにちょっと嬉しかったし夫婦って呼ばれるのも嬉し恥ずかし程度で、なんなら「いやーん夫婦だってそんな風に見える? 見えちゃうよねー!? だってお兄様とは相思相愛だしィー!!」ってなもんだけど、蕩けた顔ってのは、その……流石にやめてくれないかな。今だって必死で恥ずかしいの我慢してるんですよこっちは。
私そんな蕩けた顔してた? してたかな? やっぱりしてたよね。
そして見られたよね、ここにいる全員に。
だってみなさん当たり前のように「お兄さんに抱かれて幸せそうなソフィア」に異論唱えないんだもん。一目瞭然の蕩け顔をクラスメイトたちに大披露したってことだよねそれ。
うわーん忘れろォ! お願いだから忘れてェ!!
この人数の記憶を弄るような真似は流石にしないけど、それでも武士の情けというか、もっと言い方ってのがあると思うんだよね人の心に配慮した言い方がさ!!
何も難しいことを求めてるわけじゃない。心遣いが欲しいのよ。
もっとクラスメイトの女の子に優しくして? 言葉をオブラートに包んで?
知ってる? みんなが赤裸々に話してる内容の当事者、ここにいるんだよ?
せめて聞こえないとこで話してくれないかなぁ、なんて……。
実はこれ、高度ないじられプレイだったりしないよね? 恥ずかしさを耐える私を見て楽しむ会とかじゃないよね?
「愛とは二人で育んでゆくもの。長年ともに暮らしてきた方と今すぐ同じ位置に立つ必要はないでしょう」
「いーや、あれだけラブラブだったんだもん。引き離して上手くいくとは思えないね。新しい愛情が芽吹く前に愛情欠乏症でソフィアがダメになっちゃうよ」
「たしかにねー。もうすぐお母さんになる誰かさんみたいに『女の幸せ堪能してます〜』って感じの顔を、あれだけ見せられちゃうとねぇ。あながち否定できないかも?」
あの……ホントもう、勘弁してください。
いつまで話したら彼女たちの気は済むのでしょうか。彼女たちの気が済む瞬間は本当に来るのでしょうか。
やれ蕩けた顔だの女の顔だの言われ続けて、もう顔上げらんないんですけど。
私はいつまで顔を伏せてればいいんですかね……?
助けてお兄様。へるぷみー。
困りつつもお兄様との仲の良さを認められた嬉しさもあり、複雑な心境のソフィアさん。
解放の時は遠い。




