取り残されたお姫様
「お兄さんかっこいいねぇ」
「ヒースクリフ様と何を話されていたの? お顔が随分と赤らんでいたようですけれど……」
「どーーーみても、バトルだね? 恋の戦争だね!? ソフィアを取り合って男の対決始めちゃうんだねっ!?」
「ソフィアすっごく幸せそうな顔してたもんねぇ。お兄さんが守りたくなる気持ちも分かるわぁ」
やめてぇ、もうやめてぇ。
ソフィアさん反省しましたから。
お兄様が王子様連れてどっか行っちゃった時に「この状況ってもしかして、あの伝説の『私のために争わないで!』ってやつでは!? どうしよう、言っちゃった方がいいのかしらん!?」なんて調子に乗ってお姫様気分に浸ってたの謝りますからぁ。
「先程の方は最上級生で有名な、あの、ロランド様よね? あんな素敵な方が身内にいたならソフィアさんの男性を見る目が厳しくなるのも当然ね」
「王族であるヒースクリフ様を前にしても一歩も引かずソフィアさんを守るお姿には、ドキリとさせられてしまいました」
わいわいきゃあきゃあと楽しげに盛り上がる女子一同。
そうだよ、私のお兄様は最高にかっこいいんだ。
「ソフィアのお兄さんもかっこよかったけど、ヒースクリフ様も凛々しかったと思わない? もちろん普段からとっても素敵なんだけど、さっきはいつもと雰囲気が違って」
「うん、分かる! 顔見てるだけでドキドキしちゃったもん!」
そだね、王子様もやっぱり普段とはちょっと違ったよね。
いやまあ、あれだけ顔近づけられたら普段でも照れるとは思うけど、「なにすんだコラー!」ってならなかったのは流石の王子様フェイスと申しますか、あの綺麗な瞳に見つめられるとはっ倒すとかそーゆー野蛮な考えが浮かばなくなったんだよね。
これだからイケメンは困る。
止める人がいないから、これからも何人もの女の子を毒牙にかけていくんだろうなー。
「で? ソフィアはどっちを選ぶの?」
唐突に、空気を読まない誰かが発したその一言で「素敵だった」「惚れ惚れした」「私も守ってもらいたい」と恋する乙女モードだった女子たちが、他人の恋バナ大好き系女子に早変わりした。
一斉に集まる視線。
気分はさながら、肉食獣に狙いを定められた被捕食者だ。
こわいよ?
あまりの迫力にちょっぴりトラウマを刺激されてひびっていると、答えを待ち切れなかった数人が「まあ、聞くまでもありませんけれど」と勝手に王子様の擁護を始めた。
聞くまでもないなら最初から聞かないで欲しい。言わないけど。
「それはもちろんヒースクリフ様でしょう。かの御方から好意を寄せられて心開かない女がいるでしょうか」
「そうですとも。ましてやあのように、顔に手を添えられるというこの世の幸運を賜るなんて。神とヒースクリフ様に生涯の祈りを捧げるべきですわ」
「でもさ、ロランド様に抱かれてた時のソフィアの顔見たでしょ? あの全幅の信頼と親愛は、まるで長年連れ添った夫婦みたいだったじゃない?」
「完璧なヒースクリフ様と優秀なソフィアさん。二人が惹かれ合うのは必然。兄妹の家族愛とは違う」
「それはそーかもだけど。お兄さんとソフィアはそれを超越してるっていうか、なんだろう、二人でいるのが自然? むしろ二人でいるべき? そういう風に感じなかった?」
「それは、まぁ……」
「分かる! 兄妹の最上格っぽかった!」
予想通りと言うべきか、王子様推しの勢力が「ヒースクリフ様しかありえない」と周囲の同意を求め始めた。
意外だったのは反対派というか、お兄様推しも結構いることだ。
王子様の取り巻きと思ってた人達の中でも意見が割れていて、どうも私とお兄様の仲睦まじさに心動かされた人が多いようだ。
美しき兄妹愛の世界にようこそ。
え、羞恥心ですか? お兄様とのラブラブっぷりを見られたのはもういいのかって?
うふふ。今この場でそんなものが、なんの役に立つというのでしょうか? 下手に恥ずかしがったら今以上にからかわれるに決まっているじゃありませんか。
それにさっきから私抜きで大変盛りあがってるようだし、もう私この場にいらないよね? なら逃げてもいいかな? いいよね? よし逃げよう。
さーて、逃げ道はどこかな〜。
話の中心というかただの話題提供者。
乙女は話のネタに飢えているのだ。




