乙女フィーバー継続中!
王子様にガッされました。
瞳を見つめて「君が欲しいんだ」と囁かれました。
きっと私の顔は、茹でダコのように赤くなっていることでしょう。
いや茹でダコはかわいくないな。
そう、リンゴ。リンゴのように真っ赤に染まっていることでしょう。
甘い言葉でトロトロになったリンゴちゃんはそのまま美味しく頂かれちゃうんでしょーか。さらなる加工が施されちゃうんでしょーか。
心臓が喧しい音を立てる。
私の頭はもうショート寸前だ。
「ソフィア、こっちを見て」
この上さらに顎クイまで……!? やめてぇ、顔見ないでぇ。
乙女が顔を伏せてるのに無理矢理なんてそんなご無体な。あ、ちょっと顎撫でないで、ダメ、やめて――。
「そこまでにしてくれるかな」
もはやこれまでかと覚悟を決めたその時。
私の顎にかけられていた王子様の手を、掴んで止めた人がいた。
またひとつ、心臓が大きく跳ねた。
無理やり顔を上げさせようとする力が緩んだにも関わらず私が未だ微動だに出来ずにいるのは、こんな物語のお姫様みたいに劇的に助けられたことの衝撃が私の体を支配しているからだ。
私の危機に現れた救世主は誰か――なんて、姿を見るまでもない。
私がこの声を聞き間違えるものか。
「……ロランド様。なぜこの教室に?」
「ソフィアに助けを呼ばれた気がしてね」
驚愕の真実。お兄様は超能力者だった?
――なんてボケっとしてる場合じゃない! なんでお兄様がここに? 結界の外はどうなってる?
教室中に探査の魔力を走らせる。
うわ、やっぱり大分注目を集めてるみたいだ。
突然上級生がクラスに来たんだもん、当然だよね。
幸い音の断絶があることに気付いている人はいなさそうだったので、バレる前に遮音の結界を解除した。
「ソフィア、大丈夫だったかい?」
「はい、お兄様」
ああ、お兄様の声を聞くだけで、緊張に強ばっていた身体から力が抜けていくのがわかる。
……それに、ね?
お兄様の声を聞くことで、お兄様に迷惑をかけかねない魔法の行使をしたことに気付いて慌ててバレないようにしたけど、私にとっての一番の問題はそこじゃなくてね?
……お兄様が肩を抱いてくれてるんですよ!!
イケメン王子にキスでもされるかと思った次の瞬間にはもう、愛しのお兄さまに抱かれていた。もうね、心臓が痛いです。苦しい。
顔も耳も身体だって熱いしお兄様のお胸は暖かいし、ってそうじゃなくて。
そっと肩に手を置いて支えてくれてるだけかもしれないけど触れられた部分から労る気持ちとか愛情とかが伝わって……でもなくて。
これ相手が変わっただけでドキドキタイム継続中なんですけど!?
大フィーバー連発で一区切り着いたと思ったら超フィーバーが待ってたって感じなんですけど!!
あかん、お兄様頼りがいありすぎてヤバい。
ピンチになったらどこからともなく現れるなんて王子様かな?
このお兄様はどれだけ私の心を掴んだら気が済むのだろうか。
こんなに素敵なお兄様がいるのに他の凡百な男と恋愛なんか出来るわけないと思う。
「おっ、と……。ほら、ふらついてるじゃないか」
うふふ、ごめんなさい。
自分の幸せさに酔っていたらつい。お兄様に甘えたくなっちゃったのです。えへへぇ。
「わー……」
「はぅ……」
ん? 何今の声、ってああああ!!
そうじゃんここ教室じゃん! 公衆の面前じゃん!
ネムちゃんとカレンちゃんに思いっきりお兄様に甘えてるところ見られた!! 恥ずかしいよう!
いや二人どころじゃない。
冷静になってみれば、教室中の視線が全て私たちに向けられてるんじゃないかと感じるほどに注目を集めていた。
クラスメイトたちが雑談をやめて、これから起こる何かを見逃すまいと、熱い期待を込めて見守っていた。
……恥ずか死ぬ。
どうしようこれ。って、もうどうしようもない、よね……?
とりあえずお兄様の腕の中に隠れてみた。
ああ、お兄様の匂いがする。
このまま寝て起きたら、全部解決してたらいいのになあ。
そんなことを考えながら、私はこの後に必ず待ち受けているであろう女子からの質問責めへの対処を検討していた。
……沈黙が痛い。
普段からお兄様お兄様言ってるのでソフィアのブラコンはみんな知ってる。心配はいらない。




