王子様の本気
王子様に求婚された。
その事実を隠すため、咄嗟に周囲にいた人物を巻き込んで遮音結界の内側に閉じこめた。
だが反省はしていない。
後悔は……しなくて済む結果になるといいなぁ。
おー、と結界を見回すネムちゃんを尻目に結界の外の反応を探る。
よし、王子様の発言を気に止めた人はいないな。
「なんだこれは。魔法か? どんな効果がある?」
今まで視界に入ってはいたけど気にしていなかった、王子様のお付きっぽい少年が私から王子様を守る立ち位置へと移動して問い詰めてきた。
どうしよう、王子様に告白されてピンチな状態だってのに、そんな普通の反応がちょっと嬉しい。
「周囲の人たちにこの中での会話が聞こえなくなるだけのものです。驚かせてごめんなさい、あまり騒がれたくなかったので」
睨まれるのも新鮮ではあるけど嬉しくはない。それでも王子様の発言の邪魔をしてくれたことには感謝したいね。
ありがとう少年。そのまま危険だからと王子様連れて行ってくれたらもっと嬉しい。
「つまりこれで、僕たちの会話を遮る者はいなくなったというわけだね」
ちっがーうそうじゃない。なんでそうなるかな。
お前さんが自分の人気を気にしないでほいほい気軽に爆弾発言放り込むから対処してるんでしょーが。
つーか分かってて言ってるよね?
これってもしかして王子様の術中にはまってる? 計算通り? だとしたら、私は蜘蛛の巣に絡め取られた蝶々かな? きっと美味しくないから食べないで欲しいなー。
少年もさー、ちょっとは役に立つかと思ったのにとんだ期待外れだよ。
所詮は王子様の下僕。
肩を軽く抑えられただけで大人しく引くとかありえない。
もっとこう「嫌がる女性に立場を使って迫るのは良くないですよ」とかそんな、できる忠臣! みたいなとこ見たかったなー。そーゆートコに女の子はキュンとしちゃうんじゃないかなー。がっかりだなー。
「おーい! わー!! おーホントだ! 聞こえてない! ねーソフィア、これすっごいね! ネムにもやり方教えて! 楽しそう!」
それに比べてうちのネムちゃんはどーよ!?
アイコンタクトの必要すらなく私の望むように場の空気をかき乱すこの才能! 絶対的な安心感! これが頼りになるお友達の力ですよ!
でもこの魔法って姿はそのまま見えるからあんまり派手な動きは控えてね!
甘くなりかけた空気を完膚無きまでに破壊し尽くした我が救世主の登場に、王子様はにっこりと笑って。
「ネフィリム。今からソフィアと大事な話をしたいから、少しの間静かにしていて貰えないだろうか」
「あ、ハイ。ごめんなさい」
「ありがとう」
うっそでしょ。ネムちゃんを止めただと!?
ダメだ、今日の王子様は本気だ。いつもとはオーラが違う。
あの笑顔の背後に不敵に笑う王妃様の姿が見えるようだ。
「さあソフィア。返事を聞かせて欲しい」
怖い。笑顔が怖い。
なんで私の周りには笑顔で圧をかけてくる人が多いんだろう。
笑顔ってもっと楽しくなるような、見ているこっちまで嬉しくなるような、そんな素敵なものであるべきだと思うんだ。
チラリとカレンちゃんを見る。
あっ、目が合った瞬間俯かれた。ちょっとショック。
ミュラーは当然……ああ、口元に手を当ててまあ、そんなに瞳を輝かせないでくださいな。何も楽しいことなんて起こりませんってば。
ウォルフも口に手を当ててるけど、君のそれは笑いを堪えてるだけだよね?
こないだ相談乗ってやったのにもう恩を忘れたか。つーかお友達が困ってるの見て笑うとか趣味悪いぞ。私がミュラーに一言吹き込むだけで君らの恋愛をいつでも破局に導ける立場だってことを知らしめてやろうかコノヤロウ。
孤立無援の状況。
半ば諦めの境地でウォルフにお仕置きする妄想をして現実逃避していると、焦れた王子様に肩をガッと掴まれた。
「ソフィア、僕は本気だ。本気で君が欲しいんだ」
ぎゃー!! やめてやめて顔見んなしー!! 迫ってくるな顔近づけるなー!!
誰かこの王子様とめてぇ!
ウォルフの相談に乗ったのは事実だが、恩義を感じさせる程のことは何もしてない。
だいたい「ふーん」「そうなんだ」「頑張らないとね」で終わった。
話を聞いただけとも言う。




