王子様の求婚
気を抜いていた私に声を掛けてきたのはクラスの中心、みんなのアイドル。
ヒースクリフ王子様だった。
「なら僕が婚約者に立候補してもいいかな?」と仰られた御方は、いつもよりもマジ目に見えるのでございます。
どーすんのこれ?
――考える。思考する。
なんとかこの場における最良の結末を予期しなくてはならない。
早くて安くて美味い! が売りのファストフード店のように、早くて妥当で後腐れ無い回答を模索する。
無視もできない。熟考する時間も掛けられない。
この相手は頭が良い。
軽はずみな発言は足元を掬われる結果になりかねない。
まずは、えーと。えーと。
……無駄な抵抗してもいいです?
「ヒースクリフ様も、そんな冗談を言うのですね」
あ、これダメなやつだ。間違えた今のなし。
「教室中でこんな話をしてるからか、今日はなんだか落ち着きませんね!」
あかん、自分でも分かるくらいテンパってる。全然頭回ってないわ。
そもそも私って用意周到に準備整えて、万全の体制にしてから物事に臨みたいタイプなんだよね。でないと唐突に何か思いついた時に遊べる余裕出来ないから。
言わば楽する為に苦労するタイプ?
思いつき優先で後先考えず行動に移しちゃえるように、普段から何事にも備えておくのが肝要なのです。
人生は臨機応変。
我慢ばっかりしてたら、ストレス溜まりそうじゃん? 人生つまんなそうじゃん?
楽しく生きるためなら全力を尽くすよ! をモットーに細々と生きてきたのでございます。
だから心の準備ができない不意打ちって嫌い。
王子様が相手ってだけで取れる手段限られるのに、この人やたらと人目のある所でばっかり話しかけてくるんだもの。
まあ人目のない所で話しかけられるのもリスク高すぎて嫌なんですけどね。
つまり王子様は避けるのが一番。
それが私の結論だった。……んだけどなぁ。
「冗談じゃないよ。僕は本気だ」
………………王子様って恥ずかしいとかいう感情ないのかな。
ダメだってこれ。
ちくしょう、イケメンめ。その甘いマスクで告白すれば女の子なんてチョロいとか思ってるんだろうなー。
女の子なめんなー! お前なんてただの王子様Aじゃー! と袖にしてやりたいけど、赤くなった顔で言っても説得力ないよね。挙句微笑ましい目で見られたりなんかしたら物凄い敗北感を味わいそうだ。
「わぁっ――」
私たちのやり取りを見て興奮したミュラーが大声で叫び出しそうな雰囲気をいち早く察知しパチンと指を鳴らす。
お母様の得意技、遮音魔法。
結界の中と外で音の行き来を遮断する、ひそひそ話に最適な魔法だ。なおミュラーの発言を強制終了したのはついでである。
……思わず隔離しちゃったけど、この後どうしようね。
「ソフィアがヒースクリフ王子に求婚されてるうぅぅぅ!!」とか騒ぎ立てられるよりはよっぽどマシだけど、自分の逃げ道まで塞いでしまった感はある。
……いや、大丈夫。まだなんとかなるって。
………………なるよね?
流れるように軽はずみな発言で足元を掬われました。
芸術点をあげよう。




