妄想するのは勝手だけどね
「つまり、心に決めた相手はいる、と?」
「いません」
恋バナになりそうな雰囲気でも感じ取ったのか、ミュラーとウォルフコンビが襲来した。
だが残念だったな。
恋バナになんて断じてしない。この私がさせはしないっ!
疑問の余地を残さぬ即否定によりピシャリとシャットアウト。
甘い空気なんて必要ありませんと明確に示す。
それであら残念と引いてくれれば良かったのに、ここで動く男がいた。
私の反応を見て面白い展開にはならなさそうだと諦めかけたミュラーに近づきコソコソと話しかけるのは、いつもの三倍は胡散臭い笑みを浮かべたウォルフくん。
なぜだろう、内緒話を盗み聞きするまでもなく分かる。
あれ絶対私にとって良くない話してるよね?
その嫌な予感を肯定するように、ウォルフの話が進むにつれてそりゃもー楽しそうな顔になるミュラーさん。
こんな予想当たっても全然嬉しくない。
どうせなら宝くじとか当たればいいのに。買ってないけど。
「なるほどね。ソフィアの恋が始まる瞬間から近くで見られる。そう考えると、なんだかお得な気がしてきたわ」
ああそういうこと?
妄想するのは勝手だけど、恋が始まらない展開も想定しといた方がいいんじゃないですかね。
それに、もし仮に、万が一私が誰かと付き合うことになったとして、その様子をわざわざミュラーに見せると思うの?
男の子とイチャイチャしてる所を友達に見られるとか普通避けるよね? そんなんセットでからかわれるに決まってるじゃん。
それともあれか、見せつける的な? バカップル理論かな?
……私、もしかしてバカップルになりそうに見える、のか?
「そうそう。しかもその相手は、このクラスの誰かかもしれない。僕達の目の前で大恋愛が始まるかもしれない。僕達は歴史の証人になるんだ」
ウォルフもさぁ、そんなことが楽しみなの? 私の恋愛程度がホントに? 私は全然楽しくないからその楽しさ教えてくれないかな。ミュラーに向かって愛の言葉とか叫んでくれると私も楽しめそうな気がするんだけどどうかな。
てかね、今ウォルフに胡乱な目を向けてたら気付いちゃったんだけどさ。
ウォルフが「このクラスの誰か」って言った時に、そわっとしたよね男子? 嬉しいけどやめて、照れるから。モテ慣れてない私がモテてると勘違いしちゃうから。
私は見た目だけなら文句無しの美少女ではあるけど、性格に難アリだって自覚してるから夢見させないで。
知ってるんだぞ、男女が付き合って別れる原因第一位が「そんな人とは思わなかった」だってことを!
見た目で選ばれて! 告白されたからオーケーして! なのにちょっと付き合ったら「思ってたのと違う」なんて言われてフラれたら傷ついちゃうでしょ! 「告白されてすぐフラれるとか(笑)。顔だけ女(笑)。性格地雷(笑)」とか言われちゃうでしょ!! 社会的に死んじゃうぅ!
っていうかそれ以前に。それ以前に、だ!
美少女選び放題の貴族社会でわざわざ私選ぶやつとか絶対ロリコンだろ。
いくら私が恋愛初心者で初心でチョロかろうと、さすがに幼児体型目的の奴には騙されんからな? いや別に幼児体型じゃないですけどね!!?
「ソフィア、モテモテ?」
「だといーねー」
もうなんでもいいよ。私に実害が及ばない話なら好きにして〜。
――お母様に見られたら叱られそうな、そんな投げやりな態度をとった罰だろうか?
油断していた私は、あろうことか、この話題になった時から最も警戒しなければならなかったはずのその人物の接近を許してしまった。
「なら僕が婚約者に立候補してもいいかな?」
背後から声を掛けてきたのは、ヒースクリフ王子。
いつもの女性受けの良さそうな笑顔と、いつもとは少し違う真剣みを帯びた瞳で、真っ直ぐに私を見詰めていたのだった。
賢者の娘。成績優秀。魔法最優。剣技で剣姫と渡り合い、知識も豊富で知恵も回る。おまけにかわいい。
モテない要素がなかった。




