叔母さんになりました
――その後しばらくの時が過ぎて。
お姉様の出産は無事に終わり、元気な男の子が生まれたそうな。
名前はアジール。
よかったよかったと終われればそれが最善だったのに、お母様の余計な一言で幸せな気分は粉々にされた。
「ソフィアも叔母としてしっかりしなくてはね」
叔母。
……どうやら私は、若くして叔母さんになってしまったらしい。
「そんなことで元気がなくなるのか?」
翌日の学院でカレンちゃんと雑談に興じていると、私の不機嫌を感じとったカイルが弄りに来て、その表面上は心配そうな言葉を信じ込んだ純粋なカレンちゃんに追従され、事情を説明する流れとなった。
「そんなことって……はぁ。どうせカイルには分かんないよ」
「ふーん、そんなもんか。カレンも分かるのか?」
「えっ、私? うーん……分かる、かな?」
おばさんと呼ばれて喜ぶ女子中学生はいないと思う。
いや、まぁ……不機嫌になったところでどうしようもないのは分かってるんだけど。
ただの親族関係の呼び名であって、老け顔とか図々しいとかの理由での「おばさん」呼びで無いことは分かってはいるんだ。
それでもこの歳で叔母さんは、その……。心の準備が必要と言いますか……。
「叔母なんだから、叔母さんって呼ばれるのは当たり前だろ? いいじゃん、ソフィア叔母さん。貫禄ありそうで」
「やめてって言ってるのに、この男は……」
貫禄ってなんだ。乙女に貫禄が必要なわけがあるか。
一応心配されてる風だったから正直に答えてやったというのにまさか煽られるとは思わなんだ。
最近落ち着いてきたかもとか思ったけど、カイルはやっぱりカイルだったか。
やはりこいつは敵だな。
「ま、まぁまぁ、ソフィアちゃん。それより生まれた子、男の子なんでしょ? かわいかった?」
「まだ見てないんだー。落ち着いたら見に行くつもり」
それに比べてカレンちゃんの安心感よ。滲み出る母性が見えるようだ。
呼んでもないのにしれっと女子トークに混ざって嫌なこと言ってくる男子など知らん。
絡みにくい話題にして排除してやる。
そんなことを思っていたら突然、教室の一角からざわめきが起こった。
「ええっ、それホント!?」
「うそ! え、それってつまり……」
「学院辞めちゃうの!?」
なんだなんだ、穏やかじゃないな。
思わず会話を止められるほどの声量。
ざわめく声に耳を澄ませば、黄色い声を上げる女子が多数に、同じだけの熱を含んだ数名の男子が「やりやがったな!」と誰かを賞賛する声。ふむ。
「なんだ?」
「……なんだろうね?」
二人も首を傾げている。
確かに気になる。
キャーキャーワイワイと賑やかさを増すのは王子の毎回座る席の辺りでもないし、「学院を辞める」という発言が出たにも関わらず周囲の雰囲気は祝福するもの。暗い雰囲気は一切ない。
「それで、これからどうするの!?」
「そうよ、どうするの! もう一緒に住むの!?」
「先生方は知ってらっしゃるの!?」
「みんな、どうか落ち着いて。先生方にはもちろん既にお話してあるから」
ん、どうやら話題の中心はあの女生徒みたいだ。
……ってあれ、イチャラブさんじゃん。
相変わらず艶かしいことで。
相方のイチャラブくんの手が肩に置かれてるだけで何故ああまで色っぽい表情が出来るのか。その表情は公衆の面前に晒してもいいものなのか。
私には分からない。分かる日が来るとも思いたくない。
心の中でイチャラブくんさんとセットにしてあだ名で呼んでる二人だけど、今日はいつにも増して甘い空気を発散してるな。いやいつもも大概目の毒だけどね? 別に羨ましいとかはないけどね!?
「みんなは早いと思うかもしれない。けれど、私はそうは思わないわ。愛しい人の子を孕むのって幸せなことよ」
「「「キャー!!!」」」
うわうるっさ!
事情は分かったけど、相変わらずハレンチだよあの子!
私やっぱりあの子苦手ェ!!
ソフィア叔母さんの受難は続く。




