フェルとエッテの逆子対処法
人が持つ魔力は千差万別だ。
それは何故か。
そもそも、魔力とはなんなのか。
大気中にある魔素を呼吸と共に取り込んで、自身の体質に馴染ませたものこそが魔力である。と私は思っているのだけど、真実は知らない。リンゼちゃんに聞けば答えが分かるかもだけど、あんまり興味無いし。私は魔法が使えればなんでもいい。
ただ普通の人にとっては魔力を感じ取ることは出来ても魔素を感じ取ることは難しいらしく、また魔素を感じ取れたとしても、魔素を意識的に取り込み魔力を作り出すことは更に困難なんだとお母様が前に言ってた。
少なくなった魔力の回復力を上げるには他にも瞑想なんて方法もあるみたいだけど、他人の魔力量が見える私から言わせれば、あれは気休め程度の効果しかない。
賢者と呼ばれるお母様の瞑想でその程度なのだから、他の人なんて見るまでもない。
まあ、今はそんなことはいいんだ。
要は人によって魔力の質は異なり、そのせいで回復魔法は他人に施すのが難しいってことだ。
そもそも回復魔法って分類がもう大雑把だよね。
ゲームとかでほら、体力が一ポイントだけ減った状態と、一ポイントだけ残った状態が同じ薬草で治るじゃん? そんなわけないじゃん?
擦り傷を治すには自然治癒力を上げるし、骨が折れてるんだったら元の状態に戻さなきゃならん。
正直治療法が複雑過ぎて、いっそ身体の時間を巻き戻して怪我する前の状態にしちゃう方が私的には余程楽だ。
免疫力を上げるだとか、回復力だとか、白血球がとか血とか栄養とか、もう面倒くさいしそもそもそんな詳しくもないし。
そんな普通の回復魔法だって苦手だってのに、逆子って別に病気じゃないしね。
一応、お姉様のお腹の子が逆子だと確認することはできた。
透視なんかしたら確実にグロい映像になりそうだったから、ちゃんと移動中にグロくない方法を考えましたとも。
結果、お尻が下になってる体勢だと確認できた。これは確か危険度の低い体勢だ。とりあえず一安心かな。
最悪このままでも無事に出産できる可能性は高いけど、治せるものなら治したいのが本音でもある。
先生、お願いします!
「エッテ、頼める?」
「キュイッ!」
任せろ! と言わんばかりにポーズを決めるエッテ。実に心強い。
お腹の中に赤ちゃんひっくり返すだけの隙間がなさそうで、私の念動で対処しようとすると母胎への負荷が大きそうなんだよねー。
「キュイ。キュキュキュキュー……」
エッテはお姉様のお腹の上をあっちにウロウロ、こっちにウロウロとしている。お姉様はちょっとくすぐったそうだ。
「キュッ。キュイ!」
「キュウ」
と思ったら、フェルもお腹に登った。向かい合って鳴き合う姿はとても可愛い。
なにやらキューキュー鳴いたと思ったらトコトコとお腹を降りて、私の体を登り肩まで来ると「「キュッ!」」と声を揃えて一鳴き。
そのままフェルは私の肩で丸くなり、エッテは私の耳で遊び出した。なんだいこれ。
「終わったの?」
「キューイ」
終わったらしい。
早いね?
信用してないわけじゃないけど、念の為お姉様のお腹の中を再確認してみた。
……ちゃんと頭が下になってるね?
「お姉様、違和感はありますか?」
「? 別に、何も無いわよ」
ですよね。
さすがエッテ……いや、これはフェルの仕業かな?
治療が必要だったわけじゃないし、体勢を直すだけなら、多分フェルの管轄だ。
手を繋いでいても転ばせる。
距離があっても転ばせる。
ジャンプ中でも転ばせる。
転ばし界の生きる伝説、フェルによる「胎児転ばせショー」が行われていたに違いない。誰にも鑑賞できないけど。
いや冷静になって考えたらすごすぎて信じられなくもあるけどね。
お腹の中の赤ちゃんを転ばせて頭の位置を変えたなんて、そもそも隙間なかったじゃん? そんなことが可能なの? とか思いもするけど、まあフェルだからね。
フェルたちの異常さなんて今更だし、ましてや女神様が直々に送り込んだ生き物だ。奇跡の一つや二つ起こせるんだろう。
いわば女神様の御加護付き。
これでお姉様も無事に出産できるだろう。
いやーよかったよかった。
治療時間は秒未満。
先生流石です。
 




