お兄様とお泊まり(妄想)
――延々と続く長閑な風景だって、愛しい人が隣にいるだけで、苦にならないのだと知った。
どこまでも澄み渡る青い空に冷たい風が交じるようになった(らしい)今日この頃。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
ソフィアは今、愛しのお兄様と共にお姉様のお見舞いデートを満喫中であります。
「ソフィア、酔いは治まったかい?」
「はい、お兄様のお陰です」
揺られる馬車の乗客は仲の良い兄妹が二人だけ。
幸せそうに笑う二人は、ともすれば長年連れ添った夫婦の様にも見えるかもしれない。
そして優しい兄に気遣われる妹の体勢はもちろん、お兄様の膝枕でございます。
どう考えても天国です。本当にありがとうございます。
「ソフィア」
「はい、なんでしょうかお兄様」
私の髪を優しく撫でながら、お兄様はおでこにそっとキスを落とした。
「好きだよ」
行動が。言葉が。表情が。
お兄様の全てが、私の事が愛おしいのだと伝えてくる。
「〜〜〜っもう! 私だってお兄様のことが大好きですから!」
「いいや、僕の方が大好きだよ。キスだってしちゃう」
「んむっ!?」
唇同士を合わせる、恋人同士のキス。
昨夜に泊まった宿で一線を越えてから、お兄様の愛情表現には磨きがかかっていた。
「ふふ、ソフィアかわいい」
「あ、あまりからかわないでください……」
今朝、あどけないお兄様の寝顔を堪能していた仕返しだろうか?
昨夜、優しくも激しく愛してくれたお兄様は、悪戯に笑う顔だって魅力的で困る。
二人での道程は刺激的なことが多すぎて、私の心臓はドキドキしっぱなしだ。
「ソフィア」
「な、なんですか……?」
今度は何をされるんだろう。
またおでこにキスかな。それとも、口に?
警戒しつつも決して嫌ではないお兄様からの愛情表現を、愛しい人の膝に頭を乗せた無防備な状態で待つ。
「好きだよ」
――ああ、私も好きです。
名前を呼ばれるだけで幸せになる。
愛を囁かれれば、それだけで天にも登る心地になる。
私は世界一の幸せ者だ。
「帰ったらすぐに式を挙げよう。父上と母上にも認められて、誰からも咎められない最高の夫婦になろう。でも、先ずは」
「お姉様にご報告、ですね」
「ああ。姉さんもきっと驚くぞ」
驚きつつも祝福してくれるお姉様の姿を想像して、二人で笑い合う。
こんなに幸せでいいんだろうか。
お兄様の愛を一身に受け、親しい人達に祝福されて、どこまで幸せな気持ちが溢れるんだろうか。
そんな未来を、私は夢見た。
◇◇◇◇◇
「――――――では、準備に取り掛かりましょう」
「はい。ほら、ソフィア行くよ。ソフィア?」
「はえ?」
うふふ、お兄様と二人きりの遠出、いい。すっごくいい。なんで今まで思いつかなかったんだろうか。
お兄様に肩を揺すられて現実に戻ってからも、私は自分の妄想、いや、近い未来現実になるであろう想像の余韻に浸っていた。
「もしかして、聞いていなかったのかい?」
「ごめんなさい」
ああん、優しく窘めてくれるお兄様が、次に二人で戻ってくる頃にはその声音に愛しさを含ませてくれることを考えるだけで、思わずニヤけちゃいそうだ。
いけないいけない、お兄様の前での醜態は程々にしないと。
一線を越えるまでは万が一があるかもしれない。
お兄様の前でだけは、常にかわいいソフィアちゃんであらねば!
俯きながら必死に表情を引き締めている私に、お母様は呆れた声で言った。
「私とロランドがソフィアに同行し、ソフィアの空飛ぶ魔法で今日中に行って帰ってくることに決まりました。向こうでの滞在時間は二時間程。さ、分かったなら早く準備に取り掛かりなさい」
「――え?」
え? お母様も来るの? あれ? お兄様との二人旅は? 日帰り?
………………あれぇ??
そんな幸せな夢を見たんだ。(夢オチ)




