無力でもいい
お姉様の力になりたいけど、私にはその方法がわからない。
神様からもお墨付きを貰った魔法を使えたって、使うのが私なんだからこんなものだ。
私は教科書に載るような偉人でもなければ、困ってる全ての人を助けるスーパーヒロインでもない。
得意な魔法がやたら褒められるから調子に乗っちゃった、ただの女の子でしかないのだ。
だから、できることはできるし、できないことはできないのだと知っている。
一応身の程は知ってるつもり。
――それに。
そっと肩に置かれた手に、安心する。
ああ、やっぱり。
私が困った時には、いつだって助けてくれるのがお兄様なんだ。
私が全てをできるようになる必要は無い。
できないからと、諦める必要も無い。
そう言われているように感じられる。
この安心感。
たとえ兄妹だろうと、そりゃ好きになっちゃうのも当然だよねえ。むしろ惚れなきゃ失礼まである。
全世界の女性にお兄様の素晴らしさを教えてあげたくなっちゃうくらい、うちのお兄様は素敵なのだ。
「父上。ソフィアと僕が、ひとまず様子を見て来ます」
なるほど、分からなければ分かる人に聞く!
出産を控えたお姉様のトコロなら知識を持ってる人も集めてるだろうし、その上お姉様と会うことで私の気分も上向くというナイスなアイディアですねっ! さすがはお兄様!
「……そうだな。お前がいればソフィアも落ち着くようだし」
お兄様の案を認めつつも、なんだかしょんぼりしているお父様。
……あれ? お兄様への好きがライクではなくラブなのバレてる。
いやいやそんなまさか、ハハハ。
私がカイルを好きとか言っちゃう鈍感なお父様がそんなわけないか。
単に「俺もしかして、ロランドよりソフィアに好かれてないのか……?」なんて今更なことに気付いたとかどーせそんなんでしょ。
長年お父様を見てきた私には分かる。
深刻そうに見えても、お父様って大抵ロクなこと考えてない。
「アリシアもソフィアの顔を見れば喜ぶでしょう。アリシアには私もお世話になった助産師が着いていますが、出産に絶対はありません。妊娠中は特に心が不安定になりやすいので、明るいソフィアがいれば気の持ちようも違うでしょう」
おお、経験者の言葉は重みが違うね。
心配はしてるけど安心もしてるような、大人な貫禄がある気がする。
私も明るさには多少自信があるけど、お母様に「大丈夫です」って言われた方が安心できるんじゃないかと思えてきた。
「……お母様も一緒に行きませんか?」
「え」
思いつきでの発言に、なぜかお父様が反応した。
それを見たお母様が小さく微笑んで。
「行きたい気持ちはありますが、私は貴方達とは違って、急に何日も家を空けることは出来ませんから」
え、何日も?
え? 移動って陸路? 普通の交通機関使って行くの? つまり泊まり? お兄様と二人で!?
私が呼ばれたんだからてっきりソフィアのらくらく航空便かと思ってたけど、そうよね、ロバートさんのトコ割と近くだもんね!
おおお、どうしよ。お兄様とお泊まりだ。
これは綿密に計画を立てねばなるまい。
一生の思い出に残る旅行にしなくては!!
ソフィアが無力だなんて本人くらいしか思ってないしアリシアお姉様に至ってはかわいさで世界を取れると思ってそう。




