暴かれた恋心
「ほらまた! また女の顔してたぞ! もう相手がいるのか!? 誰だ! やっぱりカイルか!?」
「違いますよ」
女の顔て。やめてよね恥ずかしい。
てかなんでここでカイルが出てくるんだ。
お父様、実はカイル推しなのかな?
カイルの顔は割と好みではあるけど、前世の記憶のせいで同世代と付き合うのはなんか抵抗があるんだよ。
女子高生が小学生とって事案じゃん?
中学生が相手だとしたって、なんかイケナイコトしてる感じになりそうじゃん。
「アイリスも見たよな!? 今のソフィアの顔! 今のは絶対女の顔へぶっ!」
「あまり恥ずかしい言葉を何度も言わないでください」
やーい怒られてやんの。
お父様の視線が逸れたことでお兄様の様子を伺う余裕が出来た。
チラリと繋いた手の先を見れば、お兄様はお父様と違って動揺もしてなかった。
ううむ、この反応は寂しいような気もする。
ちょっとは嫉妬してくれると思ったんだけど、クールなお兄様も素敵だからこれはこれでありだな。
でもそれはそれ。これはこれ。
少しの腹いせも込めて手をにぎにぎっとしてみたり。女心は複雑だからね。
「……ソフィアは好きな子がいるのかい?」
あれ? 意外と気にしてた?
なんだか嬉しくなって、繋いだ手に向けていた視線を上げれば、そこにはいつもの笑顔が……って、あれ?
いつもと同じ笑顔なのに、いつもとは何かが違う。お兄様ソムリエの私には分かる。
なんだか少し……怖い?
「お、お兄様?」
え、なにやだ。
こんなお兄様、見たこと……いや、一度だけあった。
あれは確か、王妃様に呼び出しを受けた帰り。
普段は後ろで穏やかに微笑んでいてくれるお兄様が、あの時だけは、なにやら難しい顔で考え事をしていた。
その時の雰囲気に似てる気がする。
「ソフィア?」
「え、えっと」
どうしようこれ。言っていいのかな? お兄様のことを考えてましたって正直に言っても。
ああもう、お父様が女の顔とか言うから!
普段は言える大好きの言葉が違う意味を持ちそうで恥ずかしいんですけど!
「ソフィア?」
「お、お兄様のことを考えてました……」
お兄様の圧すっごい。思わず白状してしまった。
でも、大丈夫だよね? 普段から好きだって言ってるもんね?
確実に赤くなってるだろう顔を上げてみれば、お兄様は繋いでいない方の手で口元を隠して「そう」と一言だけ、素っ気なく言った。
ぎゃーバレてるー!! エッチなこと考えてたのバレてるでしょこれ!? だって顔隠してるけど、耳赤くなってるもん! あっ、ほら顔逸らしたしぃ!
なにこれ、すっごく恥ずかしいんですけど。
どんな羞恥プレイですかこれ? 初めてお兄様とのエッチな夢見た時並に恥ずかしいんですけど。
もう頬がちょー熱い。
あかんて。これ絶対あかんて。お兄様の顔見れなくなっちゃう。
「……分かった。ソフィアに想い人がいるのかは、今は置いておこう。とても気になりはするが、今は置いておこう。今だけな!」
「早く話を進めてください」
お父様たちの方も夫婦漫才が終わったらしい。
私たちの方は、まだちょっと……お互いの顔が見れそうにない。
「今はアリシアのことだ。ロランド、詳しく頼む」
「はい」
繋いだ手が離されることに寂しさを覚えるが、お父様の言う通り、今はお姉様のことの方が大切だ。
頭を切り替えていこう。
男の子も思春期。女の子も思春期。
そういうお年頃だもの。兄妹でもドキドキしちゃうよねえ。




