危急の知らせ
リンゼちゃんとのおしゃべり会、別名「スリリングな神様情報局」を楽しんでいたら、袖の下に重みを感じた。
「キュウ」
袖口から愛くるしい顔を覗かせかわいい鳴き声をあげるのは、元鎌鼬であり元魔物でもあり、今は巨大化もできる不思議生物。
そこに先程、元刺客という属性までもが判明した、属性もりもりラブリーペット。
フェルである。
「おかえり」
小さな顎の下をくすぐってあげるとうっとりするのが実にかわいい。
こんなにかわいいのに刺客とか絶対向いてないと思う。能力的にはかなり向いてるけど、悪者はちゃんと悪者然としててくれないと倒す時に躊躇しちゃうじゃないか。
……ん? それってやっぱり向いてる?
まあいいや。今はかわいいペットに違いないし。
それにしても、最近この子らもどんどん進化してくな。
登場の仕方なんか、もう立派なイリュージョニストだ。
と言っても今回に限ってはフェルたちの魔法で転移したわけでもなく、私が用意した種も仕掛けもある手段による移動に過ぎないんだけどね。
――アイテムボックスを魔道具化する。
その企画を実現するためヘレナさんと何度も話し合いをするうちに、そういえばアイテムボックスのこと詳しく知らないなって気付いたんだ。よって現在、絶賛開催中の「アイテムボックスの可能性を見つけようキャンペーン」の第二弾としてアイテムボックスの出入口を複数常設する試みを実施中なのだ。
今は五つ同時に展開してるんだけど、そのうちの三箇所は現在私の部屋の中にある。
さっきまでお兄様と一緒にいたはずのフェルが使ったのなら、恐らく食堂の出入口だろう。
……っていうか、あれ?
フェルに続いて、どこからともなくニュルりんと現れると思っていたエッテがいつまで経っても出てこない。
いつもペアで行動するこの子達が別行動なんて珍しいな。
わしゃわしゃと毛並みを弄ぶのを止めて、聞いてみることにした。
「フェル、エッテはどうしたの?」
「キュウ? キュッ! キュッキュウ!」
あ、忘れてた! って感じの反応。
相方なのに忘れるとかあるのか。もう野生には戻れないね。
「キュウ! キュウ、キュウッ!」
「え、お、なに? どうしたの?」
さっきまで撫でられてまったりしてた姿が嘘のように機敏に手から抜け出したフェルは、そのまま扉の前まで移動すると、短い手足で閉まった扉を叩きながらこちらに何かを訴えていた。
……これは。
「何かあったの?」
「キュウ!」
強い肯定。
今日、フェルたちはお兄様の部屋に撫でられに行っていたはずだ。
もしもエッテに何かがあったとするならば、お兄様が知らせに来るはず。
だが実際に来たのはフェルだけで、癒しの力を持つエッテが残っているとなれば当然、何かがあった人物は……。
「すぐ行こう。リンゼちゃんごめん、急用ができた」
「構わないわ。私は勝手に帰るから、いってらっしゃい」
「また話そうね」
言い捨てて扉に縋り付く。開け放つ。そして走る。走る。
先導するフェルが向かう先はお兄様の部屋ではないようだ。
大丈夫だ、焦るな。エッテがいれば大事はない。
頭の片隅で「廊下は走らない!」と叫ぶお母様が浮かぶが、今はそれどころじゃない。お叱りは後で受けよう。
今はただ、一刻も早くお兄様の元へ。
お兄様、どうか。
どうか、ご無事で……ッ!
緊迫感溢れるシーンに響く小動物の鳴き声。かわいい。




