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女神視点:世界が生まれた日

あけおめことよろー

 

 世界には暗闇だけがあった。


 瞼を閉じても。開いても。


 何も見えない。


 頬に触れる自分の手の感触だけが、私の身体がまだ存在するのだと教えてくれた。


 そのまま、体を丸めて眠った。


 早く夢から覚めますようにと願いながら。



◇◇◇



 目が覚めても、光はない。


 ここはどこなんだろう。


 今は何時だろうか。


 お腹をさすってみても空腹感はない。


 辺りを見回しても光はない。


 ここには、なにもない。



◇◇◇



 この不思議な空間に閉じ込められてどれだけ経っただろう。


 私は眠り続けていた。


 眠っている間だけは、何も考えずにいられた。


 何も考えないまま、私であることが約束されていた。


 ――もしもこれからの一生をここで過ごす事になるのだとしたら。


 今こうして思考をしている、私の存在に意味はあるのか。


 何も見えず。何も見えない。


 何者にも見られず、何者にも見つけられない。


 あってもなくても同じ。世界に影響を与えることの無い、無価値な存在。


 私は。私の意思には。


 一切の価値がない。



◇◇◇



 喉が()れた。


 音がない世界に響くのは、頭の中から鳴る幻聴のみ。


 私にはなぜ自我があるのか。


 私には未だ自我があるのか。


 この思考は、思索は、何も意味を為さないというのに。


 考えることをやめれば楽になれるというのに。


 暗闇は何も与えてはくれない。


 ここには、かつて雛形(ゆい)と呼ばれた肉袋があるだけだ。



◇◇◇



 世界があった。


 暗闇という、世界だけがあった。


 あはは、あは。


 そうだ。ここが世界だ。


 世界に闇しかないのなら、私が光になればいい。


 人と会話がしたいなら、私が人になればいい。


 肉の器に(こだわ)っていたのがバカみたいだ。


 暗闇(自由)になってみれば、ほら。


 世界にはこんなに自由(暗闇)が溢れていたのに。



◇◇◇



 どれだけの時間ここを彷徨(さまよ)っているのか、もはや定かではない。


 永遠すら一瞬で過ぎ去るここに時間の概念はない。


 一瞬すら永遠と等価値なここに変化の概念はない。


 それでも時折、迷い込むものはある。


 暗闇()が支配する空間に、意思の残滓があった。


 いつからあるのか。


 なぜここにあるのか。


 戯れに具現化を施してみれば、それは簡単に形を変えた。


 そして光が生まれた。


 そして人が生まれた。


 人は光を求め、愛し、常に手元に置いた。


 暗闇()が手を伸ばすと、拒絶するように光を抱き締め、決して(はな)そうとはしなかった。


 人に包まれた光も、輝きを強くして、暗闇()を拒んだ。


 ――ああ。


 忘却の彼方へと沈んでいた自分()が喜んでいるのが分かる。


 ――拒んでくれた。


 ()は、ここにいるんだ。


 ()は、ここにいてもいいんだ。


 小さな水の滴が一粒。どこからともなく生まれた。



◇◇◇



 光は星になった。


 人は神になった。


 星には自然が生まれ、獣が生まれ、やがて人が増えると(ことわり)が生まれた。


 無事に成長を続ける星を見送ると、()()のまま暗闇へと戻った。


 光が生まれた事で知った、暗闇(世界)の果てを()る為に。



◇◇◇



 世界(暗闇)(はこ)の中に()った。


 正六面体。


 これが、世界(暗闇)の全て。


 匣の外がどうなっているのかは分からない。


 それを知る為にまた暗闇()になろうとは思わなかった。


 光に。人に。


 私から生まれ(おち)た彼らと、共に在りたい。


 (暗闇)()ってくれた彼らと、共に在りたい。


 私は、この匣の中(世界)で生きる。


 彼らを見守りながら。



◇◇◇◇◇



「――私は、世界のお母さんなのよ」


 懐かしい、本当に懐かしい記憶。


 悠久の(とき)をただ暗闇と共に過ごした、始まりの記憶。


「この世界の理は私が手を加えた。だから、あなたの知る動植物や理があると言うのなら、私たちは同じ匣の外(世界)から来たのかもしれないわね」


 だとしたら、彼女と私の違いはなんだろうか。


 もしも私と彼女が逆の立場だったなら――。

 そんな益体も無い考えが浮かぶも、意味の無いことだと切って捨てた。


 今更、だ。本当に、今更だ。


 あの悠久が偶然の産物だとしても。


 私はもう、愛してしまっている。

 暗闇を。かつて求め続け、今は星と成った、(まばゆ)く輝く光を。

 ……そして、今も本当の私(女神)と共に在る筈の、神と成った人を。


「あなたが使う『アイテムボックス』。それはきっと、この世界()を創った魔法と同じもの……そんな気がするの」


 私にはできなかった。私には足りなかった。


 それでも、私から生まれた。


 私がいたから、生まれた。創世の魔法。


「私はもう、人だった頃の私に興味はない。あんまり覚えてもいないしね」


 私の興味はこの世界にしかない。


 これも母性と呼べるのだろうか?

 ただ、安らかに。淡く輝き続ける()であって欲しいと願う。


「今はただ、この世界を……。そうね、あなた風に言うのなら――」


 そうか。これが欲か。


 ふふ、言われて初めて気付くなんて。

 女神と崇め奉られて、私も彼女の言う通り、いい気になっていたのかもしれないわね。


「理想の世界(アイテムボックス)()ろう。私が望む、私の理想郷を」


 これが私の原点。

 今ここに定めた、女神と呼ばれる私が為すべきこと。


 あまりに傲慢で。


 欲に満ちていて。


 そしてとても、人らしい。



 この望みを叶えたい。

 見失っていた生きるという意味が今、生まれた気がした。


悲劇のヒロインぶっちゃう女神様がソフィアの規格外さに驚くのはこのあとすぐ!

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