そろそろアップルパイ食べよう?
フェレットはペットだと思う。
偏見だ! と言われようが、農家の人が動物園の鹿まで憎くなるように、フェレットを見たらペットだと思うのは日本人に共通する印象のはず。
それに前からペット欲しかったし。
お姉様が誕生日に贈ってくれたうさぎのぬいぐるみメリーちゃんとお母様が贈ってくれたくまのぬいぐるみマリーちゃんはお気に入りだけど、ペットにはペットの良さがあると思う。
いやまあ、友達のフェレット推しがすごくて羨ましかったのもあるけどね?
ともあれここでの用事は済んだ。
ただの休憩のつもりが思ったよりも時間かかったから早くアップルパイ買って帰りたい。
「無事解決、ってことでいいんですよね?」
一応確認してみた。
「どうなった!」
「消えた!?」
「今のは何ですか?」
あ、そうか。
お母様以外はずっと鎌鼬を見てたから状況が分かってないんだね。
「あの魔物は捕まえたのでもう大丈夫ですよ」
私にすら全貌が掴めていないあの謎空間からの脱出は無理だろう。
正直なところ生き物が生存できる空間なのかも怪しいところだけど、真空とかではなさそうだし、魔物も微妙に生物枠じゃなさそう。
魔物って丈夫だろうしきっと大丈夫でしょ。
「本当に危険はないのですね?」
「はい。完全に封じました!」
未だ不安そうにしてる山賊親娘に向けて強めに断言する。
それでも不安そうにしてたけど、それ以上の納得させる説明なんて私にはできない。
だからあとはお母様に丸投げした。
私から説明を聞いたお母様が説明をして一応の納得はしてもらえたみたいだった。
説明をしているうちに戻ってきた山賊団員の二人は魔物の後ろを取るべく大回りで迂回していたらしい。
結果的に無駄になっちゃったけど、ちゃんとお仕事してたんだね。
全員揃ったら帰宅だ。来た道をさっさと帰る。というか、私が急かした。
アップルパイのことを思い出したらまた食べたくなってきたからだ。
山賊団のアジトでお菓子も頂いたけど、あれは酒のツマミだと思う。アップルパイの代わりにはならない。
という愚痴をレニーに漏らしていたら、レニーがアップルパイを作ってくれることになった。
聞いてびっくり、なんでもアイゼンで話題のアップルパイはレニーのお母さんが発祥らしい。
お店はレニーのお母さんのお兄さんが切り盛りしていて、母方の家族が協力して経営している。
元はレニーもアイゼンで生まれ育ったけど、レニー本人の強い希望により幼い頃に家事全般を仕込まれて山賊団の方に居を移したそうだ。
噂のお父さんを見れば索敵に精を出していて話なんか聞いていなかった、という風を装ってはいるが耳が赤くなっていた。めっちゃ照れてる。語られていないほんわかエピソードがありそうだ。
そんな団長を見てニヤニヤしていたスワンさんを捕まえて聞いてみたら、お父さんがかわいそう! と幼いレニーが言い放ったとか。
なんでも、お店の手伝いをしていて顔が広く外に出れば色んな人に話しかけられるお母さんと比べて、山賊団の仲間しか知り合いのいないお父さんは寂しそうに見えたんだそうな。
いや〜団長さん、優しい娘さんですねぇ、ニヨニヨ。
麗しい家族愛を堪能していたらお母様に頭をはたかれた。
顔ですね、すみません。
キュッと引き締めてからニッコリ笑顔。うん、頷いている。合格らしい。
山賊砦に戻ったら、残ってたみんなに事情説明。
とはいえ私の魔法のことも魔物の細かいことも伏せられていたので、無事に帰ってきたよ、くらいなものだ。
そんな話は大人だけでどうぞ、と私は空気を読まずにレニーを急かし、一緒に調理場へ向かった。
本当に作り慣れているらしく、アップルパイを作るレニーの手際は見事の一言に尽きた。
流石にこれだけの数の団員の家事を毎日こなしているだけのことはある。なんと女子力の高いボクっ娘だろう。
すぐに一つ目のアップルパイを入れたオーブンから甘く香ばしい匂いがしてきた。
ああ、この香り。これはもう絶対美味しい。口内に唾が溢れるのをどうして止められようか。
お皿に盛られ切り込みを入れられたアップルパイは輝いて見えた。
食堂に持っていくレニーの後をちょこちょことついていく。
誰かの苦笑が聞こえたが気にもならない。今の私の心はアップルパイに占められている。
嗚呼、甘味よ。今食べてあげるから待っててね!
席に着いて両手にフォークとナイフを装備。したけどお母様に窘められて一旦装備解除。
それでも目は丸机の中央に鎮座ましますアップルパイに釘付けだ。
待つ時間が長く感じる。
脳内の時計の針が遅くなっていると錯覚するほど待ち遠しい。
やがて全てのテーブルの準備が整った。
もう、いいね?
団長さんの合図で無数のカップが掲げられる。
「大型魔物の無事な討伐を祝って!」
「「「乾杯!!!」」」
さあ、アップルパイを食べよう!!
ラウルの出番なんかなかった