トランプの魔力
「マリー、ダイヤの4早く出しなさいよ。止めてるのあなたでしょ」
「さあどうかな。人のカードを詮索するのは良くないよ?」
「むあぁ〜っ、ネムも止めてみたいのに!」
「そういうゲームじゃないんだけど……」
「ネフィリムは強運だな……あ、これで上がりだ」
案の定、部屋の中を探索し出したネムちゃんを止めるために、トランプ遊びを提案した。
これが大好評。
意外にも王子様が興味津々で、色々な遊び方を説明すれば「じゃあ遊んでみよう」となるのも自然な流れで。
そして今に至る。
「またメリーが最下位だね」
「……マリー、覚えてなさいよ」
「ボクは悪くないよ。止めてたのはご主人様だったじゃないか」
「喧嘩はやめるのだ! もう、二人はなんで喧嘩ばかりするのだ?」
「仲が良いからよ」
「仲が良いからだよ」
「……全然分からない!?」
そしてもうひとつ。
ネムちゃんが鬼強い。
神経衰弱はまだしも、七並べや大富豪など、何をやらせてもとにかく強かった。
カードの神に愛されてるのかってくらい強い手札が集まるネムちゃん。
その煽りを受け、戦略は悪くないのに連敗してるのがメリーというのが今の構図だ。
なおババ抜きでは逆にネムちゃんが弱すぎて勝負にならなかった。ぬいぐるみ勢が強すぎたってのもある。物理的に表情が動かないことがあれほど強いとは……。
「次! 次は他のゲームしよ! これ早く終わっちゃってつまんない」
「強者の台詞だな……」
「うーん、じゃあ次はスピードでもしようか」
新しい遊び方を教え、みんなで遊び、また違う遊びへ。
楽しい時間は進むのが早い。
◇◇◇
「ずっと遊んでいたのですか!?」
みんなでトランプしてたら帰って来たお母様に叱られました。
「(メリー、言い訳よろしく)」
「(分かったわ)」
もう完全に忘れてたよね。
だってだって、みんなでするトランプ楽しかったんだもん。
いつもはお兄様とくらいしかできないけど、今日は五人もいたんだよ?
パーティーゲームはみんなでやる方が楽しいんだもん。仕方ないよね。
「ご主人様のお母様。これは私の動作テストなのよ」
「……二人も同意見ですか?」
メリーの言葉を一旦保留にし、ネムちゃんと王子様にジトリとした目を向けるお母様。
さすが王妃様の先輩さん。王子様相手でも容赦ないな。
「ごめんなさい。遊んでました!」
「私がついていながら申し訳ありません。見慣れぬ遊具につい夢中になってしまいました」
あかん! この二人素直すぎるよ!
「ソフィア?」
「ごめんなさい」
そーね。事前打ち合わせも無くお母様を騙し通せる訳なんてなかったね。そもそもネムちゃんがいる時点でバレない要素なかったね。
「全く……。まあ、それはいいとして」
おや、いつもならお説教か、少なくとも大きな溜息くらいは頂くのに。今日は随分と軽い反応だね?
これが王子様効果か。もしくはお友達効果か。
すごい。この二人がいれば私はお説教から開放されるかもしれない。
「……ソフィア? 分かっているとは思いますが」
うひょーう! 二人がいれば怒られそうだからと我慢してた爆発物の研究ができるー! 戦乙女様の登場演出が派手にできるー! と夢を膨らませていた所に冷えた声が浴びせられ、興奮の熱は一瞬で鎮火した。
「はい! 調子に乗りません!」
やっぱりダメか……。
まあ仕方ないか。お隣の屋敷から派手な色の煙上がったら何事かと思うもんね。
元気の良い返事にひとまずは納得したのかお母様は一つ頷くと、学院で聞いてきた話を語り始めた。
「では私がアドラスより聞き出した話をします。メリーは齟齬があれば訂正を。ヒースクリフ様は必要があると判断すれば陛下や王妃様に報告しても構いません。もちろん陛下には後ほど、私の方からも報告させて頂きますけれど」
「分かりました」
あー、完全に遊ぶ空気ではなくなってしまった。
なんか大変そうなのは分かるけど、私にとってはメリーとマリーという遊び相手が増えたことよりも大切な事なんてないんだよね。アドラスさん、無害っぽいし。
「それとソフィアは……」
チラと向けられた視線の先には「待て」をされた犬のように大人しいネムちゃん。
また暴走しないように抑えておけばいいのね、りょーかい。
お母様の指示に従い、ネムちゃんの隣に場所を移し「んむ?」と可愛らしい鳴き声をあげる彼女の手を取り微笑みあった。和む。
全員の聞く体勢が整ったのを確認し、お母様は少し大きめの声で話し始める。
「まずは事の始まり。アドラスがネフィリムさんの家に行った時のことから――」
あっ、長くなりそうだから紅茶のお代わり先に用意しとけばよかった。
まあいいか。
ぬいぐるみの手ではカードが持てない?
よかろう。ならば浮かすまでよ。
失われし浮遊魔法はとても俗なことに使われていた。




