先手を打つ
ネムちゃんがいると話が進まなそうなのでネムちゃん含めた他の人達はこちらで引き受けますよ、その代わりアドラスさんからの聴取は任せました! とお母様に話を通した。
私のお母様たるもの、この程度の後始末は慣れっこである。
というわけで、アドラスさんの上でいつまでも仁王立ちしているメリーの首根っこを掴まえ胸に抱いた。
うむ。相変わらずの良い抱き心地で。
メリーがいない間もマリーを抱いてはいたけど、縫製かそれとも材質でも違うのか、二人は微妙に抱き心地が違う。
久しぶりなその感触を楽しみながら、これから子供組は大人の邪魔にならないよう場所を移すことを話した。
「あら、あら。ご主人様ったらせっかちね。もう帰っちゃうの? なら最後にもう一つだけ言わせて頂戴ね」
「まだ何かあるの?」
問い返す私に、メリーは腕を上げてネムちゃんを示した。
「ネフィリムも魔族なのよ」
「魔王だもんね」
そのネタはさっき聞いた。
てか、メリーって冗談も言えるんだ。すごいな。最新のロボットみたい。
「違うのよご主人様。本当なの。証拠もあるのよ」
「はいはい、家に帰ったら聞くからねー。家に帰るまでは普通の人形のフリしててね?」
「あら、家に帰るの? マリーに会うのも久しぶりね。楽しみだわ」
だって動くぬいぐるみ連れて行ける場所なんて他にないし。
どうせこの後、ぬいぐるみが動いたり喋ったりすることに慣れてきて、正常な思考ができるようになった王子様に「どういうことだソフィア!?」とかって質問攻めにされたりするんでしょ?
なら王宮とかに無理やり連れてかれる前に、私のテリトリーに連れてっちゃうもんね。
「ソフィアの家? はじめてだね! たのしみ!」
「メリーを預かってくれたお礼におもてなしするね」
ネムちゃんってパーティーとかで見た覚えないんだけど、静かに座ってお茶とか出来るのかな?
まあ家にはオモチャもいっぱいあるし心配は無用かな。
そうだな、この二人にはメリーのこともバレてるんだし、マリーも混ぜてみんなでトランプとかどうだろう。
王子様も遊んだ遊具! なんて謳い文句が付けば売り出しに渋るお父様も丸め込めないだろうか。
私もそろそろまとまった額のお小遣いが欲しいんだよね。
市井のお菓子は頼めば買ってきてくれるけど、お母様に禁止されてる魔石とか魔石とか、もっと買いたいし。
そして戦乙女様を魔改造したい。
背中から光翼出したり剣を光らせたりする為には戦乙女様自体に魔石取り付けておいた方が応用効きそうなんだよね。
今は周囲に魔力の見える人がいる中、誰にも気付かれずに動かすという条件下では、せいぜい威圧的に目を光らせたり剣を力強く地面に突き立てることしか出来ない。
最終的には合言葉で変形したり、いざというとき用の自爆装置とかも組み込みたい。その為にも安定した質の魔石は不可欠なんだ。
まあ今のも今ので楽しいけどね。
「ヒースクリフ様も、着いて来てくださいね」
「え? 僕もか?」
僕もですよ?
帰っちゃうならそれでいい気もしたけど、ここで帰すとやっぱり後日王宮に呼び出しくらいそうだからね。
それくらいならまだ家に呼んだ方がマシだ。
あのお母様レベルに手強そうな王妃様がいないうちに王子様に全部話しておけば、「その件は全て王子様にお伝えしました。もう話せることはありません」で封殺できる。
その上で呼び出そうとすればそれは王子様が伝達役も出来ない無能であることの証明になってしまう。
……おいおい、今日の私はどうしたんだ? 我ながら完璧な計画じゃないか。
思わず口元がにやけちゃうね。
「ソフィア、なにかいいことあったの? 嬉しそうなのだ」
「んー? ネムちゃんたちを家に招待できるから、かな?」
当たり障りのない本心で返せば、ネムちゃんは嬉しそうに笑う。
「ふふん、そうだろう! 魔王たる我を迎え入れる心構えが出来ているようだな!」
うむうむ、メイドに「びっくり箱みたい」と称された私の部屋を楽しみにするといい。
あー、楽しみになってきた。
ソフィアが王妃様を怖がるのは叱られ慣れてるお母様に似てるから。
無表情の仮面と笑顔の仮面。




