魔族
「魔族って知ってるかしら?」
とても楽しそうな声音で、その単語を口にしたメリー。
その言葉に強い反応を示したのはアドラスさんと、もう一人。
「おい! 約束が――」
「魔族!! はい! 魔族知ってる!!」
ネムちゃんが釣れてた。
ネムちゃんがめっちゃ食いついたせいでアドラスさんの抗議は封殺された。物理的に。
勢い余ったネムちゃんが師匠であるはずの男の頭に手をついてまでハイハイ! とメリーに迫るとは、一体誰に予想できただろうか。
喋ってる途中で頭を下げさせられた為に舌でも噛んだのか、頭を押さえつけられながらももにゃもにゃとなにやら垂れ流しているのは文句の言葉だろうか。もはや判然としないそれは、抗議の体を為していなかった。
さすがに哀れだ……。
「そう。ネフィリムはやっぱり優秀ね」
「ふふん、当然なのだ!」
うわあ。なんかもう、うわあ。
惨めすぎてもう見てられない。
メリーはともかくネムちゃんの視界からナチュラルに除外されてるのが悲惨すぎる。
普段からもっとネムちゃんの好感度稼いどこ? グッドコミュニケーションしよ?
弟子にこんな粗末な扱い受ける師匠なんて私見た事ないよ。
「魔族……。昔、人と共に暮らしていた種族ですね。妖精族に並ぶほど古くから存在していて、その、子孫を残す能力の低さから今ではもう絶滅したと」
お母様の説明した通り、魔族は絶滅した種族だ。前に習った。
「はいはい! それで、魔法もすごいんだよね! 何を隠そう、我こそが魔族最後の生き残り! 魔族の王にして魔法の深淵を知る者! ネフィリムであるからな! それくらい常識である!」
ふはははははは!! と絶好調なネムちゃんでしたー。はい補足説明ありがとう。
それで魔族ってのは、人間より優れた身体能力と魔法の力を持っていて、完全に人間の上位互換ではあったんだけど、
「魔族は秀でた種族であったが故に滅びたのだ。魔族の持つ強大な魔力。それが大地の滅びを招くと、昔の魔王様が突き止めたのだ。魔族が繁栄すれば世界が滅ぶ……。うう、魔族は世界に生きるみんなの為を思って、死んじゃったのだ」
……とネムちゃんが言う通り、大地の衰退を防ぐ術として、昔の魔族はあろうことか集団自殺を図った。
元々数が多い種族ではなかったみたいだけど、それでも数百人はいたらしい。
小さな町規模の人数が、一斉にいなくなる。
……当時のことは想像しか出来ないけれど、
「でもでも、魔族さんはとっても優しくてっ、一番数の多かった人間さん用に改良した魔法の使い方を残してくれたのだ! あと、魔石の使い方とかも! だから今のネムたちの生活があるのは、みーんな魔族さんのお陰なのだ!」
ネムちゃんめっちゃ詳しいな。
さすがは特別クラスの学力優秀者。まあ半分以上は趣味な気もするけど。
「その魔族さんがどうしたのだ!?」
興奮冷めやらぬと言った様子でネムちゃんがメリーに迫る。
おおっ! ネムちゃんの剣幕に、あの傍若無人だったメリーが一歩引いたぞ!
表情変わらないのに感情豊かだよね、メリーって。
「その魔族さんがね、この下僕なのよ」
ほう、そうなのか。
……ほう?
「……メリーの話は本当ですか、アドラス」
「…………」
緊張感を孕んだお母様の質問に、沈黙を保つアドラスさん。
それはつまり、アドラスさんが魔族、ってこと……?
えー、なんかやだ。
初めは癖が強いと思ったネフィリムさんも、ソフィアに比べればマシだと気付いたアイリスお母様。
ソフィアと比べれば大抵頑張れる。




