誘拐犯の元へ
学院でネムちゃんと合流し、お母様も含めた三人でいざお師匠さんの元へ、と思ったら王子様も着いてくることになった。
「クラスのみんなに、任せろと言ったからね」
キメ顔もばっちり決まる王子様スマイル。クラスの子がいたら黄色い悲鳴が上がりそうだ。
それはともかく、ネムちゃんもお母様も王子様の同行に否やはないようで、結果バランスの取れた四人パーティがここに爆誕。
知略のお母様。
権力の王子様。
天然のネムちゃん。
癒し要因にして最終兵器の私。
最強すぎるこの布陣。もはや負ける気がしない。
◇
「ここにいるはずです」
そしてお母様に先導され行き着いた先は、まさかの学院内。
というかヘレナさんの研究室と同じ棟の一室だった。
「賢者用の研究室があります。近場で邪魔の入らない場所となれば、ここしかないでしょう」
ネムちゃんに「師匠の居場所が分からない」と言われた時はどうしたものかと思ったけど、流石の知略担当。颯爽と先導を務めるお母様のなんと頼れることか。
ぶっちゃけメリーの居場所くらい魔法でなんぼでも探せるけど、ネムちゃんはともかく王子様がいる前でそんな魔法を使ったとして「なんで分かったんだ?」と聞かれれば「女の勘です」で通せるとも思えない。
というかそれ以前に魔法発動したらバレそう。
バレない様に魔法使うのにもだいぶ慣れたけど、これだけジッと見つめられてたら態度でバレそう。王子様、前見て歩こう?
「ソフィア、もう身体は大丈夫なのか?」
「ええ、大分良くなりましたから」
何度目だよこのやり取り。
本心で心配してくれてる良い奴だって分かってるんだけど、なんだろう。家族以外の男に心配され慣れてないせいかムズムズするんだよね。
あと王子様に声掛けられる度にお母様がチラと見てくるのがかなり気になる。無表情でなに考えてるのか分からないの怖い。いっそなんか言って。
「ふふん。ソフィアの身体は我が魔術により完全に快癒している! 何も心配はない!」
「そうだね。ネムちゃんと話して元気は出たかな」
「今は魔王ネフィリムなのだ!」
ネムちゃんも今は絶好調。
学院に戻った時は私への罪悪感でめっちゃ落ち込んでたけど慰めるのは案外簡単だった。ネムちゃんマジネムちゃん。
放課後にお母様と初顔合わせする頃にはすっかりいつもの調子で「我は魔王ネフィリム! ソフィアと共に、旧友メリーを救う者なり!!」とか宣うくらい元気になった。
なんでも魔王スタイルが師匠と会う時の正装らしく、初めからエンジン全開。
怪訝な目で見下ろすお母様を前にして「ふははははは!」と高笑いを続けられる胆力には素直に称賛を送る他なかった。
「三人とも、お喋りは終わりにして下さい。入りますよ、準備はいいですか?」
はーいと三者三様の返事をすれば、お母様の手によって扉は開かれ、【探究】の賢者の研究室の全貌が明らかになってゆく。
とはいえ予想通りと言うべきか。
部屋の作りはヘレナさんの研究室と大差ない。
書棚に並ぶ大量の書物。様々な器具が机の上に所狭しと並び、床には乱雑に散らばっている紙切れ。
そして開けた部屋の中央では、一人の男性が四つん這いに――
パタン。
「……………………」
……なんとも言えない顔をしたお母様により、扉は再び閉められた。
なんだ今の。
私たちを引き連れて歩くお母様って、先生っぽいよね。
仏頂面がリチャード先生と似てるからかも。




