圧倒的メルヒェン
ハーイ、エブリバディ。
あたしはソフィア。
ぬいぐるみがだーいすきな、とってもメルヘンチックな女の子よ!
今日はクラスメイトのおともだちに、あたしのかわいいメリーちゃんが、どうしてネムちゃんのおうちに行くことになったのかを説明してあげるの! よーく聞いててよね!
…………脳内の段階でキツイ。恥ずかしい。この調子でホントにいくの?
もっと設定練っとくんだった。
メリーがぬいぐるみだってことはこの場では証明のしようがないし、とりあえずは納得してくれたということにしておく。そうしないと話進まないし。
だけどそうなると当然、次の疑問が出るわけさ。つまり「なんでソフィアのぬいぐるみをネフィリムが持ってるのか」って話。
説明したさ、心を無にして。
「メリーが鳥に狙われていて怖がっていたので、対策を講じている間、ネムちゃんの家に避難させていたんです」
ぬいぐるみって納得させた直後にまた「やっぱりメリーって子供なんじゃ……」と思わせる内容だけど、しょーがないじゃん。ネムちゃんにそう説明したのは事実なんだから。
「ぬいぐるみを、避難……?」
王子様を筆頭に、説明を聞いたみんなは私のことを変なものを見る目で見る。もう泣きたい。
私にだって人の心がある。
そんな目で見られたら傷つくんですよ? てか本気で頭の心配しないで。自分でも分かってるから変な事言ってるって!
でもね、まだ序の口なんですよ。
まだメルヘンが顔を覗かせたくらい。全然足りないんです。
だからもっと言う。この恥辱の先にしか解決の道はないと信じて!
だってどうせみなさん、私の言うことなんか信じてくれませんし? どうせ信じてもらえないなら、もう圧倒的なメルヘンでみんなから正常な判断力を奪うごり押し戦法しかないと覚悟を決めちゃったもんね。
頭おかしいと思われるくらいじゃないとやってられないさ!
「メリーは臆病な子なんです。今の我が家では心休まらないと思い、安全で、かつ不安を和らげる話し相手になってあげられる人の傍ということで、ネムちゃんに頼りました」
「そ、そうか。それはなんとも……大変なんだな」
ははっ、王子様の笑顔引き攣ってるじゃんウケるー。
目の端に溜まった涙はきっと笑いすぎたからかな。
そろそろ心が軋んでる感じするけど突っ走るよ私は。ここで立ち止まったら今までの恥ずかしい行動が全部無駄になるし。
「そんな家族同然のメリーが、まさかネムちゃんのお師匠様に連れ去られただなんて……。これはみんなの言う通り、誘拐事件として扱うべきなんじゃないでしょうか!? ぬいぐるみとはいえ、メリーは知らない人に攫われてきっと怖がっています!」
「いや、落ち着け。君の感情はともかく、ぬいぐるみを持ち去っただけで誘拐とは言えない」
あは、ですよね! その言葉が聞きたかった!!
押してだめなら引いてみろ。
どうせ信じてくれないならいっそ望み通り、ぬいぐるみ誘拐事件にしてやる! みんな揃ってぬいぐるみの誘拐犯を追う頭おかしい仲間にしてやろうじゃないか! と半ばやけくそ気味に舵を切ったのが功を奏した。その代わり、私の精神力はごっそり減ったけどね。
信じられる? まだ授業開始前だよ? 一日が始まったばかりなんだよ?
なんで私は朝からこんな疲れてるんだ。
それもこれもネムちゃんが……いや、クラスメイトに聞きつけられたからか。
メリーが謎に包まれたネムちゃんの師匠の懐に潜入したとか、本来なら「マジで? すごいじゃん!」とテンション上がってもいいくらいの出来事なのに。
つーかホント、何がどうなったらネムちゃんからメリーを取り上げるなんて事態になるんだろうか。まさかぬいぐるみ愛好者ってわけでもあるまいに。
謎すぎるよ、ネムちゃんのお師匠さん。
「ネフィリムも、どういった経緯で預かり物であるメリーが奪われる事態になったのか、説明してもらえるか?」
私の熱演が効いたのか、王子様は質問の矛先をネムちゃんに向けた。
私もメリーが連れ去られた理由は気になる。
「それは、えっと……メリーちゃんが、ね?」
そして再び始まるネムちゃんのもじもじ劇場。
普段は闊達なネムちゃんをして、そんなに言いづらいことがあるとは思えないんだけど。
何を言い淀む必要があるのか。そして、何故私の顔色を伺うのか。
いい加減ちょっとイラッとしてきた。
はよ自白しろと。
「メリーがどうしたって?」
「えう……。あの、ソフィア。耳貸して……」
少し強めに問い質しても、ネムちゃんはまだハッキリとは答えない。
さすがに、何かがおかしい。
そんな違和感を抱きつつ言われた通り耳を寄せてみれば、ネムちゃんが語ったのは、予想だにしなかったメリーの姿であった。
やけくそパワーで難局を乗り切ったソフィアに更なる新事実が突き付けられる。
心の平穏は未だ遠い。




