噂の子供
バカウケでした。【黒い穴】。
ひとしきり遊んだら、話題は玩具のことから、自然と学院の話に移った。
なおノアちゃんは未だ【黒い穴】に夢中である。
不思議さには自信あったけど、それでもまあよくも飽きないものだと感心してしまう。
あんな穴ひとつで遊び倒せるノアちゃんが……あっ、お客様ー! 困ります! お菓子で遊ばれては困り……お客様ーっ! 穴にお菓子を突っ込むのは御遠慮くださーいっ!
――ふう。元気があってよろしいね。
「あはは……。で、学院での話だっけ? 私の所まで聞こえてくるよー、ソフィアの噂」
「……ッ、…………っっ!」
やっぱりかー! やっぱり何か広まってたかー!
ヒース王子もいるし、うちのクラスの出来事が他所に広がってないわけないよねー! 案の定だよ!!
「何? その変なポーズ」
「……噂の内容。聞きたくないけど、聞きたい、ポーズ」
「大変だねえ」
やっぱり大変な内容なんですかっ!?
「あー怖い。うう。変な噂じゃ、ないよね……?」
「うーん……。……あはは」
うわーん! やっぱり変な内容なんだー!!
「違うの、不可抗力なの、私は何も悪くないの。私はただのかよわい乙女。無力でちっぽけな小娘なのにぃ」
「ソフィアが? あはは」
笑うなよう! 今の笑うところじゃないよう! 何がおかしいんだよう!
「いーい? ソフィアに関する噂で、いちばん有名なのはこれ。『銀髪の子供が、ヒースクリフ王子を子分みたいに使いパシリにしているらしい』」
……………………ホワイ?
え、待って、なにそれ。なんか今、予想外の方向からデッドボール食らった感じした。なにこれ? なんだそれ??
てゆーかさ。
「……銀髪の子供って、私?」
「『小さな女の子』とか言われるパターンもあるから、多分ね」
小さくて悪かったな! でも子供じゃないよ、新入生だよ! 辛うじて新入生の最小サイズだよ!!
「誰? そんなこと言ってるの」
「そ、そんなに怒んないでよ〜。噂だから、誰とかじゃないよ。みんな知ってるよ」
「みんな……」
マジでー? みんなってみんな? みんな知ってる噂なの??
じゃあもしかして、今まで下校時に知らない人から見られたりしてたのも、私の可愛さに見蕩れてたどころか「初めて見る子だ、新入生かな」レベルですらなくて、「銀髪の子供……王子を手下にしてるヤツか……うわ、目が合っちゃったよ」って感じだったってこと!? なにそれありえなくない??
「あの……ホントに?」
「ホントにー」
あはは、とお気楽に笑うマーレ。
……私の学院生活、どこで狂ったんだろ。
「えー……。なんでそんなことになってるのー……」
「なにか誤解されるようなことした覚えはないの? ほら、ソフィアってヒースクリフ様のこともそこらの男子と同じように扱いそうだし」
「流石にそんなことは……」
無い、と言おうとして思い当たる。
まさか、アレか?
ミュラーに頭強打された時に先生呼んできてもらったアレか? 非常時でも王子様に頼むのは不味かったかな?
言い淀んだ私を見て、マーレが信じられないと驚きを露わにした。
「……まさか、ホントに?」
「えっと、あの、非常時だったので……」
はぁ〜、と大きな溜め息を頂戴してしまった。
「ソフィアが悪い」
「うぅぅ……」
そんなにー? 王子様ってそんなに偉いの? ホントにー?
えー、でもだってこないだヘレナさんの研究室で王子様兄弟と話してた時だって、別に普通に……。そう言われればヘレナさんが、普段より固かった気がする、かも……? そんなん分かるかよう。王子様もアーサー君も許してくれてるんだからいいじゃんよう。
ようよう納得いかないYO、と駄々をこねてたら、楽しげに目を輝かせたマーレが顔を寄せてきた。
「ねね、じゃあもしかして、他の噂も本当なの?」
「あ、もう結構ですー。聞きたくないですー」
「『三年の特別クラスの先輩方に様付けで呼ばせてる新入生』とか、他にも『先生の間で危険人物として名を覚えられてる生徒がいる』とか――」
「やーだー! 聞きたくなーいー!」
ぎゃーぎゃーわーわーと騒がしくしてたら何故かノアちゃんまで混ざって来て、気付いた時にはベッドの上でくすぐり大会に移行してた。
……有意義な情報が得られた休養日でした…………。
有名人だよやったね!




