父の重い愛情
メニューが決定した。
肉料理でありつつも、メインは肉にあらず。味の決め手は独特なソースにあり。
チキン南蛮withタルタルソースである。
鶏肉は薄く大きく切り分けて、フォークで穴を開けたら味付けもみもみ。
片栗粉を付けたら油を引いたフライパンでいい色になるまでジュワーっ。ひっくり返したらまたジュワーっ。蓋をしたらばちょっと放置。いい香りに誘われても蓋は取らない。
その間にお酢と醤油っぽい調味料を混ぜて、知ってる味との違いを誤魔化す為にも砂糖とトウガラシで味を整え、柑橘の汁で風味を整え、タレが完成。
もう焼けたかな? 焼けてるよね?
はい、肉が焼けたら油をふき取りましてー、出来たてホヤホヤのタレが天高くフライハーイ。フライパンに合流いたしまぁす。
仕上げはお待ちかね、みんな大好きタルタル君。
きゅうり、たまねぎをみじん切りにして水にさらしておいたものを布巾で絞りまして、ゆで卵と自作マヨネーズでぐっちゃぐちゃ。酢と塩コショウ、あとなんか、パセリの代わりに彩りになりそーなのをちょちょいと混ぜて、ぐっちゃぐちゃ。
んでもって、フラストレーションが産んだ大量の千切りキャベツちゃんの上に、タレを合えたお肉さんを乗せてタルタル君でお化粧すれば、ホイ完成!
甘酢タルタルのチキン南蛮にござーい!
うむ、久し振りにしては中々うまくできたんじゃないかな?
味見役のカーリッジさんの反応も上々。
元の味を知ってる私からするとなーんか違うんだけど、やっぱ醤油だよねえ。
キャベツだって鶏肉だって元の世界のと変わんないんだから醤油くらいあってもいいのに。
なんか煎酒? とかいう米のお酒から作られるらしい調味料が一番近いかなーと思って代用したけど、和風っぽいだけじゃやっぱ違うわ。そもそも和風=醤油なとこあるしね。
でもいいや。これはこれで美味しいし。
さあ、タルタル君御一行よ。
お父様の舌を唸らせておやりなさい!
「うまい! うまいぞ!」
「うん、美味しいよソフィア」
「甘くて、酸っぱくて、辛くて。まろやかな食感で、爽やかな香りがするのに、一癖も二癖もある……。ふふっ、まるでソフィアみたいな料理ね。美味しい」
お母様よ、それはどういう意味ですか? まあ美味しかったようで何よりですけど。
私もパクリ。
うーんタルタル。さすがのタルタルよ。このたまねぎの食感が好きなんだよねー。
甘酢タレもいい感じ。
ピリ辛で食欲をそそるこの味の、キャベツとなんと合うことか。
でもなんかなー! やっぱり何かが、ちょおーっとだけ違うんだよなあー。
なんて言うか、B級グルメ的な?
これぞ地元の味です! ご賞味下さい! と謳っておきながら、店によって味が違うみたいなね。
地元の味くらい統一してから来なさいよと言いたくなるあの感じ。
美味しいは美味しい。
でも……うぅ、醤油が恋しいよォ。
「ソフィア!」
「はいッ!?」
うわぅびっくりした。
なんだようお父様、人が愛しき和の心に思いを馳せてる時に。
「ソフィアの気持ち、確かに受け取った! お父様は感動したぞ!!」
「……喜んで頂けて、私も嬉しいです」
あーね、そういえば今日の料理はそもそもが「父の日に感謝を送ろう」から始まったんだったね。危うく忘れるところだった。
でもそれならそれで、もっとゆっくり味わって欲しかったというか。
あんなにガッツいて食べたら誰が作っても同じじゃないかな? なんて思ったりも……。
……まあ、それだけ美味しかったと言われれば、悪い気はしないけどさ。
「ソフィアは気遣いもできて料理も美味い! 最高の娘だ! 俺は幸せ者だな!」
「あらアナタ。ソフィアだけで満足ですか?」
「もちろん、愛しい妻に子供たち! 頼れる部下に同僚たち! みんなみんな最高だ! みんながいるから幸せなんだ!!」
「はは、父上、酔ってるのかな」
「ふふ、そうかもしれないわね」
……恥ずかしいなあ、もう。
お父様の愛は大きくて、真っ直ぐすぎて、私にはやっぱり少し重すぎると感じてしまうけれど。
今日くらいは、そんな愛の重さを感じるのも良いかもしれない。
そう思った。
優しい世界




