怒りの千切り
お父様に料理を作る。
んで、ぎゃふんと言わせる。
その為には味だけでは足りない。
見た目からも、ガツン! とインパクトを与える料理が必要なのに、良いアイデアが浮かばない。
これも前世でサボっていた罰だというのか。
でも仕方ないじゃん!
だって前世のお母様――ええい、あんなのはただのお母さんで十分だ!
前世のお母さんは、私が料理をしているのを見つけるといそいそと寄ってきては「なにアンタ、いい男でも捕まえた? ってそんな訳ないわよねー! いつまでも女ばっかりで遊んでないで、たまには男友達でも連れて来なさいよねー。あ、ついでに朝食の用意もお願いネ♪ お母さん、男に縁のない娘を見てたら気分が優れなくって……。その代わりアンタがいい男連れてきた時には精一杯おもてなしするから! そんな機会一生ないだろうけど! アッハッハッハッハッ!!」とか言ってくる外道だかんね。料理をする機会も減るわ。
あ、思い出したらなんかムカついてきた。
自分だって男に逃げられたくせに何偉そうに説教してんだァア!? って感じだけど、お母さんは頭はアレでもスペックは悪くなかった。猫かぶりが上手いとも言う。
ご近所さんには女手一つで娘を育てる健気な未亡人で通していたし、男の先生にも……まぁ、モテてた。
悔しいけどアレで料理も上手だし、私が本当に悩んでる時には話だって聞いてくれる。いい母親の素質はあったよ。悔しいけどそこは認める。
でもね。
家の中で「未亡人って言ってりゃ言葉濁しても詮索されないの楽よねーホント離婚してよかったわー」だの「ねえねえねえさっきのアンタの担任の顔見た!? アイツ絶対私に気があるわよ! ウケるー!!」だの言ってるのを見ればこれがイイ女だなんて絶対認めたくない。
しかも、しかもだよ!?
友達と電話してるからって買い物断っただけで「ああん? 母親に反抗しようだなんて良い度胸ね。『智ちゃんとケンカしちゃったぁ……』ってかわいらし〜く泣きついてきた時にママが慰めてあげたの、忘れちゃいまちたか〜?」とか言って煽ってくるんだよ!? 信じられる!? ねえ!!
あんなのがいる家で、迂闊に料理なんか出来るわけないよねぇ!!?
つまり私が料理できないのは全部お母さんのせい! 家庭環境のせい! 断じて私のせいではない!!
……はぁ、はぁ。うん、ちょっとスッキリした。
本当にちょっと。ちょびーっとだけで、むしろお母さんのこと思い出したせいでモヤモヤする気分の方が強いくらいだけど、この苛立ちは料理にぶつけようそうしよう。
となるとキャベツの千切りがしたいな。
今ね、まな板おもっくそバンバン叩きたい気分。
ザックリザックリ子気味良い手応えを感じながらストレスを発散し、ついでに美味しい料理の付け合わせを作ろう。ふふ、飽きるまでキャベツ共を細切れにしてくれる。
ふむ。となるとキャベツの千切りを使った料理、か……。
トンカツも作ったし、生姜焼きも……唐揚げなんてしょっちゅう食べてるし……となると、やはりマヨか……ついにマヨか……。あの悪魔の調味料、できれば使わずに済ませたかったけど。
私にはまるで理解できないけど、世に「マヨラー」なる味覚障害者を量産した実績を持つマヨネーズなら、それなりの評価は得られると思う。
もし家族の口に合わなかったとしても、対マヨラーの同士が得られると思えば私のダメージも軽微。勝っても負けても損は無い。無いっちゃ、無いんだけど……。
チラリとカーリッジさんに目を向けてみる。
このお姉さんが、もしもマヨラーになったら。
……私はこれまで通りに仲良くできる自信が無い。
「なにか思い付いたみたいですね?」
「……もう少し考えさせて」
マヨネーズの依存性、ヤバいからなあ。
それからもしばらくの間、私はうんうんと頭を悩ませるのだった。
ソフィアのお母さんはひどい人だねえ(棒)
ソフィアはああはなっちゃいけないよ(棒)