お父様の日
唐突だけど、ここには父の日といった概念がない。
ないけど、普段家族の為に頑張っていくれている父親に感謝を捧げて悪いこともないだろう。
よし。今日は父の日にしよう。
そう決めた。
「お父様。本日の予定をお聞きしても?」
「? いつも通り執務の予定だが……」
「では夕食は屋敷で?」
「そうだな」
家族が集まる朝食の折。
お父様の予定を確認しておく。
「なんだ、なにかあるのか?」
「いえ、お父様に日頃の感謝を込めて料理でも作ろうかと思いまして」
「!? ソフィアがか!?」
信じられないものを見た! と驚愕に大きく顔を歪めるお父様。
驚きすぎじゃないかな?
そりゃ私だって急だとは思うけど、今朝起きた時にふと思い立ったんだもん。しょうがないじゃん。
「……嫌ならやめますけど」
「いや! 嫌じゃない! 嫌じゃないが……急にどうした? 何か面倒事でも起こしたのか」
「起こしてません!」
なんだようお母様みたいなこと言って!
私がお父様の為に料理するのがそんなにおかしいか! 確かに今までしたこと無かったけど!
「ソフィア、落ち着いて。父上も照れてるだけだよ。そうですよね、父上」
「あ、ああ、そうだ。いや悪かった。楽しみにしてるぞ」
むう……最初からそう言えばいいのに。
くそう、こうなったら娘の好意を疑った自分を責めたくなるくらい凄いの作ってやるんだから! 覚悟しててよね!
「ということになりましたのでご協力よろしくお願いします」
「ははっ、了解! お館様の度肝を抜く料理か、楽しみだねぇ!」
副料理長のカーリッジさんは私のお菓子作りに昔から付き合ってくれてたから仲が良い。
無口で私が苦手っぽい料理長は肉料理が特に得意で、カーリッジさんは盛り付け上手といった印象だけれど、私から見れば二人とも同じくらいすごい。流石はプロって感じ。
とはいえ、カーリッジさん本人は「いつまでも副料理長の座に甘んじているつもりは無い。いつか必ず超えてみせる!」と息巻いている。そう言い続けてもうすぐ十年経っちゃうけど、まあ向上心があるのはいい事だと思う。
そんな仲良しカーリッジさんの協力の元、今晩のメニューを考えるのである。
「正直言って、お父様の好みからすると肉料理は外せません。でも料理長の肉料理と比べられると嫌なので、料理長が作ったことの無い料理にしたいと思います」
こっちは素人。プロに比べて劣って当然。
とはいえ「料理長のよりは美味しくないけど美味いぞ!」なんて思わせたい訳では無い。
目標はお父様の度肝を抜くこと!
なればこそ、見たことも無い料理でインパクト重視! 見て驚き、食べて美味しい二段構えで勝負だ!
「その案には同意するけど、いい料理があるのかい? ソフィア様が色々思い付くのが得意とは言っても、料理長には既にいくつもレシピ渡してたろ?」
そうなんだよねぇ〜。
我が家の食生活の充実の為、あれもこれもと作り方さえ分からないものだって提案してきたツケがっ!
しかも私に作れるもので、まだ誰にも披露してない料理となると……むむ……むむむぅ……難題である!
「カーリッジさんも何か考えてください!」
「ええ? 相変わらず無茶ぶりするなあ……」
「私がお父様に馬鹿にされてもいいんですか!」
「お館様だったら、ソフィア様が自分の為に作ったってだけで泣いて喜びそうだけど?」
「そんな低いハードル超えても意味がありません! 目標は高くっ! 嬉しさのあまり一月は私の料理のすばらしさを方々に自慢したくなる……ような…………。……そんなお父様になると困るので、まあ翌日目が覚めても嬉しさが持続しているくらいを目標にしましょう」
「ははっ、了解」
うむむ、喜ばせすぎもダメなんだった。
お父様って交友関係やたら広いから、注意しとかないと変なところにまで話が広がるんだよね。あんな面倒な思いはもうこりごり。
となるとー……。
料理長に教えてないレシピで、肉料理で、お父様が喜び過ぎず、でも感激して次の日までスキップして過ごしたくなるような料理。
……そんな料理あるかな!?
思い立ったが吉日。
思い立った時しか労ってもらえないけど、お父様にとっては吉日で間違いないはず。