あかちゃんに慣れよう
あかちゃんになった私の(下の)危機を救ってくれたのはメイドさんでした。
いや、間に合ってなかったけどね。オムツの中が気持ち悪いのを救ってくれたのは事実だ。
このメイドさん、ずっと部屋の中にいたらしい。
居眠りしちゃってたんだって、可愛らしいね。
そう、このメイドさん、とてつもなく可愛らしいのだ。
金髪碧眼の15? 16? くらいのあどけなさの残る可愛らしいお嬢様が、アキバのコスプレなんて目じゃない、明らかに高そうな生地のメイド服に身を包んでいらっしゃる。細かな装飾が高級さを醸しつつも、機能美を損なわない程度にさりげない華やかさをも散りばめられた、それはもうすんばらしい出来栄えの一品だ。
いやー眼福だね。メイド服もこんな綺麗な人に着てもらえたら本望でしょう。
そんな綺麗で可愛らしいお嬢様が高価な服着てあかちゃんの下の世話するんだからね。
もうね、申し訳なさがすごい。
しゅんとしてる私を見て「今日は大人しくできて偉いですね」なんて言ってくれる。
声もかわいい。
思わずにへらとだらしない顔になったけど、メイドさんはそれを見ても笑顔を返してくれた。天使かな。
さて、もうすぐご飯らしいけど満腹になるとすぐ寝そうだから今のうちに状況を整理しよう。
私は今、前世の記憶があるあかちゃんになってる。
このあかちゃんの記憶もある。
私の今の名前はソフィア様である。
どうにも死んで転生してしまったらしい。
私を殺したのは誰なのかとか、お母さんに親不孝しちゃったなとか、友達に貸したい漫画まだあったのにとか。思うことが無いわけではないけれど。
ま、しょうがないよね。
どうせ元の私のことなんて今更どうしようも無いし。
あと、メイドさんの話す言葉は当然日本語じゃなかった。だって金髪碧眼だし、そもそも日本に純メイドなんかいるはずがないからね。いや、いるのか? いないよね?
英語とかでもなさそうだけど、幸いにも何を話しているのかは分かる。
ただ私の声帯が未発達なのか会話はできない。
嫌なことは「だー!」、諾意は「うー!」があかちゃん語だ。
ボディランゲージで十分かもしれないけど、喋る訓練になるかもだしね、うん。意思表示大切。
そんな私もあかちゃん生活……、5日目くらい?
いや、赤ちゃんって寝てばっかりだから時間感覚わかんないんだよね。
でも暫定5日も経てば私だってそろそろあかちゃん生活に慣れてくる。
初めは嫌で嫌で「だー!」を連発してお父様に儚い抵抗をしていたお着替えだって大人しくしていられる忍耐力を身につけた。
諦めたともいえる。
だって考えてもみてほしい。
嫌がる女子高生(現在あかちゃん)がチャラ男風イケメン大学生(みたいなお父様)に無理やり押さえつけられて裸に剥かれるのだ。
しかも笑いながら。
お父様は異常性癖の持ち主かと戦々恐々しながら暴れに暴れた。
だが悲しいかな今の私はあかちゃん。
大の大人に敵うわけもなく、泣く泣く裸に剥かれ体中をあったか柔らかい布で撫で回された。
悔しいけど気持ち良かったし、恥ずかしかろうと抵抗するだけ無駄なのでそのうち諦めた。
元気があっていいな! と笑ってたお父様も三回目くらいから自分が嫌われてるらしいと気付いたらしく、申し訳なさそうな顔をするようになったので罪悪感もあったし。
嫌なことにも慣れるか諦め、むしろくっちゃ寝生活ってかなり贅沢じゃない? とポジティブに考えることでだいぶ精神的な余裕が出てきた私は、順風満帆あかちゃんライフをより充実したものにすべく、有り余る時間を思索に費やすのだった。
「ソフィアはやんちゃな子だな!」
「いえ、大人し過ぎるくらいですが……。暴れるのは貴方が抱いた時だけですよ」
「えっ!?」