レイネシア視点:たのしい子
ヒースクリフちゃんの恋路があまりうまくいっていないみたいだから、ちょっとお手伝いすることにしたの。
ヒースちゃんと聖女ちゃんをラブラブにしちゃいましょう〜、うふふ。
それでね、ヒースちゃんの懸念に、もしかしたら? と思って。
聖女ちゃんのこと調べてみたの。
そうしたらね、うふふ。
聖女ちゃんったら、本当におもしろい子よね〜。
「実はね、聖女ちゃんの入学試験の答案借りてきたの。そうしたらね〜、うふふ」
「は、母上。あまり権力を濫用するのは……」
「あら、濫用はしていないわよ? これは必要なことだったの。ヒースちゃんのお嫁さんが優秀な人なら国益にもなるし、答案の一枚くらい、どうってことないわよ〜」
それに、かるぅい気持ちだったけど、とっても面白いことが分かっちゃったしね。うふふ。
「は、はぁ……それで、その答案がどうかしたのですか?」
「聖女ちゃん、全問正解してたのに、わざと間違えたみたいなのよね〜」
「えっ!?」
あれにはびっくりしたわね〜。
しかも、そのことに気付かせる細工までして。
自分の望む順位にわざと下がりながら、評価する先生方からの評価は満点のまま。
うふふ。聖女ちゃん、頭のいい子ね〜。
「それに、ヒースちゃんが声を掛けようとすると、さりげなーく席を立ったりするんでしょう?」
「そう……ですね。単に僕の間が悪いと言えなくもない。けれど……」
「たしかに、多かった。でしょう?」
コクリと頷くヒースちゃん。
やっぱりね〜。
恋するヒースちゃんの主観だと当てにならないから、聖女ちゃんの元に向かおうとした回数と失敗した回数を数えるように言っておいたのよね。
普通なら、失敗は印象に残りやすいから、で済んじゃうんだけど。
聖女ちゃんはやっぱり、意図的にヒースちゃんを避けていたみたいね。
それもこれも、おそらく……。
「ヒースちゃんが前に言っていた通り、聖女ちゃん。目立ちたくないんじゃないかしら?」
そうとしか思えないのよね〜。
ちょっと鋭い女の子なら、ヒースちゃんが聖女ちゃんを見る目が特別だって分かっちゃいそうだもの。
嫌いではないけど、避ける。
それはやっぱり、ヒースちゃんが王子様という立場だから……よね?
そう考えるのが自然ではあるのだけれど、でも、そうだとすると〜……。
「でも、ソフィア、は、人目を引く出来事を度々起こしていますし、もはやクラスの中心人物です。僕よりも余程目立っていますよ」
あ、今の。ソフィア、って名前で呼ぶの照れちゃって。かわいいんだから〜もう。うふふ。
でもそうなのよねぇ。
本当に目立つのが嫌なら、方法はいくらでもあるはずなのよ。
というよりも、ヒースちゃんもいるクラスで一番目立つ事の方が余程難しいのではないかしら?
ということは、狙って?
聖女ちゃんならそのくらいできそうだけれど、それならヒースちゃんを避けるのは不自然よね。んん〜、聖女ちゃんの目的がはっきりしないと、恋のアドバイスができないわ〜。
「そうね〜……。もう本人に、直接聞いちゃいましょうか」
「え? いいのですか?」
「いいのよ! 時には大胆に! 恋の秘訣よ!」
「なるほど……」
それに私も、また聖女ちゃんと会いたいし♪
「そうと決まればさっそく呼び出して――」
「呼び出すのですか!? それは、その……嫌がられないでしょうか?」
「う〜ん、嫌がられるかもしれないけど、平気よ〜。ちゃあんとおもてなしすれば、きっと許してくれるわよ〜」
それに王宮に篭っていると退屈なのよね〜。退屈すぎて毎日お友達集めてたらいろんな人に怒られちゃったけど、たまになら構わないわよね?
「あの、母上……。できれば、ソフィアの嫌がることはしたくないです。僕はあの子の、その。楽しそうにしている顔を見るのが、好きなので……」
あら。あらあらあらあら!
まあああ、ヒースちゃんったらなんてかわいいのかしら!
少し前までは女の子に言い寄られても私に愚痴るばっかりでまるで興味無さそうだったのに、いつの間にか女の子の為にこんな優しい表情をするようになっちゃって!
恋は男の子も変えちゃうのね! すごいわ!
「分かったわ! でも嫌がられずに聞き出す方法となると……」
う〜ん、そうなると、どうしようかしら?
王宮に呼び出すのもダメ、ヒースちゃんが直接接触するのも微妙だし〜。
こちらの事情を話すのに支障なく、聖女ちゃんが嫌がらない人でもいればお任せしたいところだけど、そんな都合のいい人物なんて……。
「あ、母上。アーサーが来たようです」
「あら、もうそんな時間?」
嫌だわ、恋の話はたのしくって、時が経つのが本当に早いのだもの。
息子達はみんな愛しいけれど、末っ子のアーサーちゃんもやっぱりかわいいのよね〜。
最近はやたらと大人ぶったりなんかしちゃって、特に子供扱いを嫌ってぷりぷりと怒るところなんて、女心をくすぐってそれはもうかわいらしい……あら? あらあら〜?
「お仕事お疲れ様です、お母様。あ、ヒース兄様もいらしたのですね。新しい家庭教師の件で少し相談が……あの、なんですか?」
そうよね〜。かわいい男の子が嫌いな女の子なんて、いないわよね〜。
「ねぇアーサーちゃん。学院、行ってみたくなぁい?」
ヒースクリフがソフィアとの接触を控えてるのは王妃様の策だったというお話。
気付かぬ内に外堀埋められないよう気をつけてね、ソフィアちゃん。