vs剣聖
「往くぞッ!!」
剣姫に続いて剣聖さんとも剣を交えることになろうとは。
剣もそこそこ使える方だとは思うけど、私ってどう考えても魔法使いタイプだと思うんだけどな。小柄だし見るからに直接戦闘向いてなさそうでしょ。そんなか弱い美少女に嬉々として襲いかかってくる方々の正気を疑う。
そもそもさ、こんな小娘を本職の人がどーして気にするのって話。
戦闘イベントとか「認められたくば打ち倒してみよ!」系の熱血はそっち方面で悩んでそうなウォルフにでも声掛けてあげて欲しいわけ。
私は荒事とは無縁に生きていきたい。
「どうした! こんなものか!? やる気がないのか!!」
今回は心構えが出来てたから、四方八方からとんでもない速度で剣が襲ってきてもまだ余裕がある。
ひゃー、とか、きゃー、とか言って「私戦えないですう、怖いですうもうイヤですう」って雰囲気出して負けるまで怯え続けるつもりだったけど、やっぱり本気出してないの見抜いてくるよね。あ、13回目のヒット、ありがとうございます。
「追い詰められないと実力が出せないタイプか!? ならば!!」
あっ、怖い。これ怖い。
何をしたって訳でもないのに、バル爺ちゃんから感じるプレッシャーの質が変わった。向けられた木剣が「えっ、あの女の子殺していいんですかやったー!」って喜んで見える。なにこの幻覚不穏すぎる。
これ殺意ってやつじゃないですかね身が竦んじゃうってか目! 目がヤバいよ! あれ絶対人殺してる目だって!
……え、ホントに殺されないよね? えええ演技だよね!?
「避けろよ」
あ、死ぬわこれ。
負けがどうとか言ってられない。
本能が鳴らす警鐘のままに、身体強化レベルを即座に最大レベルへ。
強化した動体視力が捉えたのは、ブレる剣先から放たれた三本の衝撃波――。
え、フル強化でも剣先見えないとかヤバない?
しかも飛ぶ斬撃とかさっきまでと難易度がッ! 違いすぎませんかねッ!?
「きゃあっ!」
うぉう、もろに吹っ飛ばされた。身体強化のおかげで痛くはないけど目が回るうぅ〜。
避けろとか言ってたくせに、三本囲むように撃ってくるなんてひどいと思う。
左から迫るのを右に避けることで躱して、右から来てたのはこっそり魔力を纏わせた剣で受け流し、受け流しの反動を利用して下方からの一番威力の弱そうな攻撃を普通に受け止めた――と思ったら、予想以上の威力にすってんころりん吹き飛んだ。威力ェ。
これ守りもせずに全部まともに受けてたら両手両足折れてない? 一応急所は外してるみたいだけど威力がえげつないよ。
「ふむ、なるほど」
あ、怖い感じが無くなった。
吹き飛んだことでちょっとやりすぎたって気づいてくれたのかな? よかった。ちゃんと反省できる人は好きだよ、バル爺――ッ! 今までで一番、はやっ!?
「くうぅっ!」
「反応するか」
びっくりしたぁー! なに今の!? バル爺ちゃん、一瞬で私の目の前にワープしてきたんですけど! しかも剣が放たれる直前のポーズで!!
あー……思わず防いじゃったよ。
今のは無反応で受けとくべきだったな……失敗したぁ。
だってバル爺ちゃん、今明らかにやる気入ったもん。口元がニヤッてしたの見たもん。
今までは結構手加減してくれてたっぽいのに、これからは本気で来られるかもしれない。
そうなったらいよいよ選ばなくちゃならない。
即ち、サンドバッグ覚悟で負けを望むか、勝利を目標に据えるか。
私の答えは決まってる。
「ほう。目が変わったな」
「やることが定まりましたので」
そうとも、覚悟を決めた乙女は強いんだぞー。
私は負けたい。
それは厳しそうな剣の世界に行きたくないとか、気楽に生きたいといった後ろ向きな感情によるものだ。
でも。
「ああ、ソフィアが……!」
お父様の声が聞こえる。
お父様は愛情深い人だ。
魔物退治にお母様と向かわされた事もあったけど、後で戦力的にお母様の傍が一番安全だったと聞かされ納得した。
お兄様だって、お母様だって、心配そうに私を見てる。
バル爺ちゃんに吹っ飛ばされる度に「あぁっ」と抑え切れずに言葉となって溢れた感情が、私の耳にはしっかり届いてた。
私は気楽に生きたい。
だけどそれは、気負う事無く、という意味だ。
家族みんなと、笑顔で、楽しい毎日をずっと続けていきたいと、そういう意味だ。
これ以上敗北を目指すことが家族から笑顔を奪うなら。
私は勝ちにいく。
正直ちょっと、いやだいぶ怖いとゆーか、油断してたさっきの内に決断してたらなあとか思うけど。
そのくらいの重荷は背負おう。
「次はこちらから行きますよ?」
「待ち侘びたぞ」
楽しそうにしちゃってまあ。
でも、私も少し楽しみかもしれない。
だってバル爺ちゃん、珍しく本気でやっても大丈夫そうな良い練習台になりそうだからね!
吹っ飛ばされようが転がされようが、汚れも傷も何一つ付かない。それがソフィア謹製身体強化クオリティ。




