説得されました(難易度:低)
ヘレナさんに連れられるまま研究室まで来たけど、やっぱりアイテムボックスの魔道具化は色々と無理があると思う。
その旨を素直に伝えたら、肩をがっしと掴まれた。
「駄目です。無理です。逃がしません。ソフィアちゃんは私と研究するんです」
無理ですて。鬼気迫ってて怖いよ。
もー、これだから研究者って人種は困るんだよなー。
でもこういうの、お母様で大分慣れたからね。もう熱量だけで押し切られるソフィアちゃんではないのだよ。
「そうは言っても、魔道具作りはヘレナさんの専門じゃないんでしょう? お母様とだって無理だったんですから、やっぱり無理があるんですよ」
「そんなことはありません。魔道具製作に関しては確かにアイリスに一歩譲りますが、魔法の解析や簡略化に関しては私の分野ですから。既存の魔法を魔道具に落とし込むのなら私の方が向いているとさえ言えるでしょう」
あれ、そうなの?
でもなー。アイテムボックスの魔法って他の魔法と違って、大分難易度の高い構造してると思うんだよね。
空間裂いて、中身は宇宙。
たとえファンタジー世界だろうと、それこそ魔王とか神レベルの魔法じゃないかなこれ。
我ながらとんでもないことするよね。これからも自重する気ないけど。
私が渋っているのを感じてか、ヘレナさんが言葉を重ねた。
「ソフィアちゃんだって魔道具作り、興味があるでしょう? 諦める前に私と挑戦してみませんか? もしもソフィアちゃんの言うように失敗したとしても、何か得る物があるかもしれないでしょう?」
むむ、今ちょっと心が動かされたよ。
でも失敗前提って、そんな心構えだからひとつの研究に何年も掛かったりしちゃうんだよ。
何度失敗してもめげない心が新しい魔法を生むんだって今度さりげなく教えてあげよう。
あとアレだね。
妙に食い下がると思ったけどこれ、研究成果目的じゃないね。
思うにヘレナさん。独身生活が長すぎて人恋しくなってるんじゃないかな。
友人の娘と一緒に研究♪ 擬似母娘体験♪ とか……考えすぎかな?
まあヘレナさんの言う通り、別に意固地になって研究に協力しない理由もないから構わないんだけどね。
どう? やってみない? あっ、おやつも付けるわよ? と半ば必死で言い募ってくるヘレナさんの姿に、私は苦笑しながら了承の意を返した。
決しておやつに釣られた訳では無い。
了承を得られたヘレナさんは喜色満面で、今この瞬間に研究の成功が決定したかのような喜びようだった。
「ありがとう! 一緒にすんごいの作って、『これからは魔道具の時代だ!』と世に知らしめましょう! 私たちは時代の先駆者になるのよ!」
「あはは……」
前から思ってたけど、ヘレナさんって名誉に飢えてるっていうか、承認欲求強いよね。世間に認められたがってる、みたいな。
それが悪いとは言わないけど、「これが欲しい! よし作ろう!」って強い願望がまず初めにないとモチベを保てない私からすると、ヘレナさんの名誉欲はあまり理解できない感情だ。
アイテムボックスを作りたい私と、すんごいのを作りたいヘレナさんの、意識のすれ違いがそこはかなとなく心配なのだけど……。
まあ、なるようになるかな?
「あ、おやつって今日から出ますか?」
「研究チーム発足祝いだものね! 今から豪勢なの頼んで来るわ」
うん、なんとかなる気がしてきた。
ちょーたのしみ。
本日二回目のおやつ、ゲットだぜ!




