毎日楽しくエブリデイえんじょーい
朝飯前というのは時間帯のことでないと思う。
ではなぜ朝飯前なのか。昼飯前ではダメだったのか。
飯と言えばこの間の食後に出たカップケーキは美味しかった。今日のおやつに持っていくのもいいかもしれない。
朝食前の時間帯に、そんな益体もないことを考える。えっさほいさと軽い運動をしながら。
私は今日も平常運転だ。
「おはよう、世界」
晴れ渡った青空を見上げてなんとなく声を出してみる。
見た目はフェレット、中身は……元は妖怪、その次は魔物。しかし今は我が家のペット! 割と謎生物の片割れ、エッテが私の頭上で「キュ?」と可愛らしい声を上げながら、私の視線の先を不思議そうに眺めていた。うん、なにもないよ。私は気分次第で虚空に語りかける変な美少女だからね。
美少女は何をしても絵になる。
美少女なら何をしたって許されるのだ。美少女ばんざい。
「よし。日課終わりっ」
「キュウ〜」
声を上げて一息つけば、備え付けのテーブルの上で私の真似をして身体をくねらせていたフェルも、エッテと瓜二つな身体を伸び〜っと伸ばして可愛らしい声を上げた。
ああ、癒される。
朝起きて運動して、学院で勉強して、帰って来てからは運動でも勉強でも魔法でも好きな事をして過ごす。そんな毎日。とっても充実してます。
今日もこれから学院だ。
その前にシャワーを浴びて汗を流して、家族みんなで朝ごはんを食べて、その後には忘れちゃいけないお兄様との行ってきますの挨拶とかもあるけれど。
いつもと変わらない。でも、それすらも楽しい一日が。
今日も私を待ち構えているんじゃないかな!?
◇
毎日楽しくエブリデイえんじょーい。
そんな学院生活にも大分慣れてきたある日のこと。
朝食の席でお母様に声を掛けられた。
「ソフィア。今日は時間が取れますか」と。
変な質問だと思う。
言ってはなんだが、私はごく普通の学生に過ぎない。
どこにでも居る一般的な女学生だ。
つまり暇だ。エブリデイオールタイム暇人だ。
宿題なんかが出ても大抵は放課後までに終わらせちゃうから、毎日その時々の欲求に従い気ままに生きている。時間なんかいくらでも取れる。
「学院の後なら大丈夫です」
真意が分からず、とりあえずは無難に返す。
放課後はお友達とおしゃべりしてることが多いけど、一日早く帰った程度でどうなるものでもない。
むしろ学院の友達を優先しすぎて家族との時間が疎かになっていた可能性も否めない。少なくとも、学院が楽しくてお母様に甘える時間は減っていた。これは反省しなきゃだね。
なんたって、学院が始まるまではお母様と一緒にお茶したり魔法の研究したりが日常の、充実した母娘タイムが日課だったわけだからね。急に親離れしたら寂しくなるのは当然だろう。
もしくはあれだ。
お姉様が嫁いでから唯一となった我が家の賑やかし要員が誰なのか、私という存在の大切さに気付いたのかもしれない。
いつもどれだけ甘えていたのか。その存在に助けられていたのか。
いるのが当たり前。
その前提が崩れてはじめて、その明るさと向けられる笑顔に。心からの安らぎを得ていたと気付くんだ。
私もお兄様が学院に通いだした時はそうだったなあ。あの時は深い喪失感を抱いたものだ。
だから今のお母様の気持ちはよく分かるよ。
「ヘレナから、いつまで経っても貴女が来ないと愚痴を聞かされています。今日にでも研究室に顔を出してきなさい」
全然違った。
弄ろうとしなくてよかったね。
にしても、ヘレナさん? 魔法の授業で顔を合わせるけど、何も約束した覚えは……なんだっけ?
少し記憶を辿ってみたけど引っかかるものは無い。
まあ思い出さないってことは大した事じゃないよね。
どっちにしろ行けば分かるだろう。
久々にヘレナさんと二人きりでお話するのも楽しそうだし。
お母様の黒歴史やお姉様、お兄様のこと。話したいことはいくらでもある。
「分かりました」
それはそれとして、やっぱりお母様との時間もそのうち取ろう。
顔には出ないけど、お母様も私と同じで寂しがり屋だからね。
当たり前のことですが、学院におやつの時間は存在しません。