魔法少女のマスコットとは
ちょっとやりすぎたかもしれない。
「わたし、メリーさん。わたしと契約して、魔王様になってみない?」
「ボクはマリー。ボクと契約して、魔王様になろうよ」
目の前には動いて喋る二体のぬいぐるみ。
その光景自体はメルヘンチックなんだけど、魔王へと誘う姿はどこかの悪魔でも乗り移ったかの様にしか見えない。
どうしてこうなった。
対【探究】の賢者用に、メリーを魔法少女のマスコット的な存在に改造してネムちゃんの元に潜り込ませようとした。そこまではいい。
姉妹として扱ってきた二人……二体を、片方だけお喋りできたり、動けるようにするのも不公平かなと思った。これも自然な流れだ。
問題は、マリーに「魔法少女のマスコットってーなんですかー」と聞かれた時に、心で思ったことが伝わる状態であることをすっかり忘れて、数々の魔法少女とマスコットの活躍シーンを脳内再生してしまったことだ。
魔法でドーン。
悪者ドカーン。
戦闘中はそそくさと避難しつつ、終われば労いの声をかけるだけ。
普段は少女たちと平和な日常を謳歌しつつ、近くに現れた敵を知らせれば魔法少女たちが活躍して帰ってくる。
自分が注目を浴びることは無い。
しかし、活躍する魔法少女たちは自分が選び、自分が育てた。力の源だって自分が与えた。
世間で注目を浴びる魔法少女たちは、その実、魔法少女のマスコットと呼ばれる自分の傀儡にすぎない。
食事を用意させ、寝床を用意させ、敵が出れば退治に行かせて、報酬もいらない。最高の奴隷だ。
そんな奴隷を持てる立場になれるなんて願ってもない! その改造、喜んで受け入れます!
……魔法少女とマスコットの活躍を回想してる横で、嬉しそうにこんなこと言われた私の気持ち、分かる?
二人の主人でいる自信がちょっとなくなったよ。
メリーとマリーの精神って何が軸になってるんだろうね。
気付いたら心を持ってたぬいぐるみ。
その心は誰かに与えられたものなのか。ぬいぐるみが本来持っていたものなのか。それとも。
誰かに与えられたとしたら、それはぬいぐるみの製作者? それとも、お友達の様に話しかけ続けた、持ち主の女の子?
まあなんにしろね。
この子ら、かわいい外見に反して、ちょっと危険思想すぎる。
歩く機能も会話機能も危険すぎるからやっぱやめようかな、とも思ったんだけど。
その意思が伝わった時の悲しげな反応。
期待させるだけさせておいて裏切られる。その残酷さを知る私には、メリーたちの期待を切り捨てられるだけの非道さは無かった。
でもこの子ら野放しとか怖すぎるからさ。
とりあえず今回は、動けるようにするだけ。他の機能はそのうちね。ということで許してもらった。
我ながら何の解決にもなってないけど仕方無い。
本当は歩けるようにする過程で「魔法は一朝一夕では使えない」ということをよく知ってもらって、時間を稼いでる間に解決策を模索しようと思ったんだけど、この子ら一時間もしないで魔法で歩く方法マスターしたからね。とんでもないぬいぐるみだよ。
魔法を教えるのヤバくね? と急遽方針を転換したから、今この子たちに出来ることはぬいぐるみの体を動かすことだけだ。それも、体内に埋め込んだ魔石の欠片の容量までという制限付き。
いくら危険思想を持とうとも、ただ動けるだけで人と会話もできない、他の魔法も使えないのではどうしようもないだろう。
これで大人しく聞き耳を立てる仕事に従事してくれれぱいいんだけど……そこはかとなく、心配だなあ。
私は知らなかった。
メリー、マリーと話す時。私の方から念話を使っていた。
思考力の上がり具合を確かめる為に声を出させた時だって、思考を音声にする魔法は私が使っていた。
だから気付かなかった。
魔法の使い方を知った彼女たちが、何度も自らに掛けられた念話の魔法を、既に自分の力だけで使えるようになっていただなんて――。
「魔法少女は奴隷とかじゃなくてね。愛と勇気で人類を守る――」
(無償なのよね?)
(魔法を使えるようにしてもらう代わりに働いてるのですよね?)
「そ、そうだけど、そうじゃなくてね。なんて言えばいいのか……」
結局、説得はできませんでした。