憧れの上級生
「あー楽しかった!」
「良かったね」
色々と心労もあったけど、お兄様が楽しそうにしてることが分かって私的にも良かった。
魔法の授業というより、完全にお兄様のクラスに遊びに行っただけの状態だったけど、先生公認なら問題ない……のかなあ。
余所のクラスのこととはいえ、普段からあれじゃあ勉強にならないだろう。今日が特別だっただけだと思いたい。
「また行こうね!」
「そうだね」
次もあんな授業だったら他の先生にチクってやる。
そんな決意を固めつつ、愛しの我がクラスに帰ってきた。
「あっ……! お、おかえり、なさい」
「うむ! 我が戻ってきたのだ!」
「ただいま、カレン」
返事をしつつ、素早く教室内をチェックする。異常は見受けられない。
カレンが怯えてる風だったからとうとうイジメが! と身構えたけど、そういう訳でもない……のかな?
「大丈夫、だった?」
「最高だったのだ!」
うん大丈夫そう。
怯えは自身に降りかかるものじゃなく、私たちを心配してのものだったみたいだね。心配される理由に心当たりないけど。
ネムちゃんの答えがあまりに予想外だったのか、カレンちゃんはキョトンとしている。
「……最高?」
「うむ。実に良い時間であった。我らは歓待を受け、楽しい時間を過ごしてきたのだ」
どう聞いても授業を受けてきた感想じゃないよねこれ。
カレンちゃんが頭に疑問符を浮かべるのも無理はない。
でも事実なんだよね。信じ難いことにさ。
「何を心配してるのかは分からないけど、本当だよ。楽しい先輩たちに歓迎されて……仲良くなってきた」
うん、むしろそれしかしてない。
改めて自分で言うのもなんだけど、授業の話だとはとても思えないね。実はレクリエーションの時間だったんだろうか。
「そ、そうなんだ……。よかった」
よく分からないけどカレンちゃんを安心させられたならよかった。実際はただ騒いでただけなのに、心配させて申し訳ない。
「ほら、だから言ったろ? ソフィアがその程度でどうにかなるかって」
「それでも心配するのが友達でしょう」
「カイルはソフィアのことをよく分かってるんだねえ」
カイルたちがじゃれ合いながらやってきた。
どうにもカレンちゃんが心配していた理由を知ってそうなので聞いてみると、
「魔法の先生がさ、『二人が向かった特別クラスは過去最高の成績を残している優秀な人たちだから、自信を失うことになるかもしれない』みたいなことを言ってたんだよ。それを聞いてからカレンがずっと心配してて」
「だって……」
カレンちゃん、なんて優しい子。
確かにあんなどんちゃん騒ぎの授業放棄クラスより劣るとなれば悔しさでどうにかなりそうだけど、あのクラスにはお兄様がいるんだから負けるのは当然とも言えるしそもそも魔法見せてもらってないからね!
ネムちゃんの魔法が見れたのは良かったけど、上級生たちは私たちの魔法を見て、騒いで、崇めて、おしゃべりして、騒いでいただけだ。何度改めても授業中の感想じゃないな。
「でも、二人が楽しそうで、良かった。優秀な先輩方に優しくしてもらえて、良かったね」
「うむ!」
優秀な、先輩方……。
どうしよう、すごく否定したいのに、あの集団にお兄様が所属していることを考えると迂闊に批判もできない。
いや違う、私は彼らと接しはしたが能力は見せてもらっていない。
むしろかわいいかわいい後輩が来るとあらかじめ知っていたとしたら、癖の強いネムちゃんに合わせてわざとあんな振る舞いをしていた可能性だってないとも言い切れない……かもしれない。いやきっとそう。
どこからどうみても素で騒いでるようにしか見えなかったけど、あれは私たちに気を遣わせない為にあえて道化を演じていたんだ!
そう考えれば、彼らがとても優秀な先輩であるという先生の認識にも何の矛盾もない! そうか、そういう事だったのか! まんまと騙されちゃったよアハハハハー! ってそんなわけないよね!
うぅ。楽しかったけど、良い人達だったけど、あれを優秀な先輩方なんて言われると、こう、背中がムズムズするというか。
あぁぁ否定も肯定もできなくて微妙な感じィ! モヤッとするよぅ! モヤッと!
「何をモジモジしているの?」
「トイレだろ」
「違うから」
お下品なカイルをとりあえずぶっ叩いて、ミュラーにもなんでもないと返しておく。
憧れの上級生の真実は、わざわざ吹聴することでもないだろう。
「ねね、ソフィア。上級生のクラスどうだった?」
「イケメンいた?」
なんて思ってると来るよね、キミたち。
私たちの会話が落ち着いたのを見計らってかクラスメイトが寄ってきた。
彼女たちの期待を裏切らずに楽しい話を。なおかつお兄様のクラスへの評判も落とさないように。
授業中よりも頭を使うことになりそうだった。
おませな女子は学内イケメンリストの作成に余念がないのです。