すごい+かわいい=すごくかわいい
炎の壁は直ぐに消えた。
後に残されたのは、表面が黒く染まった木片。
一般生徒が焦げ跡を残せば褒められるレベルであるそれを、丸ごと染め上げる威力。
伸びきったと思っていた鼻でさえ謙虚に見える、正に圧倒的なまでの魔法であった。
「……えー、そんな感じで今年の新入生にはとりわけ優秀な生徒が二人もいます。先輩として、抜かされないよう頑張ってね」
「「「もう抜かされてるわっ!」」」
おおう、びっくりした。
「いやいやいやいやなんなの? キミタチなんなの?? もうすごすぎ! すごいとしか言い様がない!」
「マジ魔王! いやマジ魔王でしょこんなん! スゲーってヤベーってパネーって!」
「力のネフィリムちゃん、技のソフィアちゃん、って感じ? やー、目標にするのも遠すぎる」
ものすごく評価されてるけど、私もビックリした。
ネムちゃんの魔法。
あれはちょっと、違いすぎる。
詠唱によって画一化されたはずの規格から大きくはみ出す威力。
アレは普通じゃない。
みんなが使う魔法とは明らかに違う。どちらかと言えば、私が使う魔法に近い代物だった。
無詠唱の魔法に、必要のない詠唱を付け足しただけのダミー魔法。
今回のことで確信できた。
ネムちゃんの師、【探究】の賢者は魔法の本質を知っている。
それはつまり、私レベルの魔法使いがいる可能性があるってことだ。
――ほんの一夜で国をも滅ぼせる、魔法使いが。
「ほーら、ソフィアちゃんも!」
「ふぇ、はい!?」
油断しているところに急に手を引かれて、かわいい声が出た。
こういうとっさの時に出る声がかわいいかどうかで人の評価は変わると思う。
女の子の悲鳴は「きゃあ!」であるべきだし、くしゃみなら「へぷちっ」になるよう練習もした。
気になる女の子のくしゃみが「ぶえっくしょい! ういーっ」だったら、百年の恋も覚めるでしょ? それを受け入れてくれるのを愛とは呼ばない。呼びたくない。
見知らぬ女子先輩に連れて行かれた先には、教祖様がいた。
ひれ伏す信者に声を掛け、奏上される感謝の声を微笑んで受け入れる……いや、あの顔はそんな慎ましいものじゃないな。
ニマニマというか、ニヨニヨというか。
とにかく嬉しげで、幸せそうで、邪魔するのが申し訳なくなるような。ここはネムちゃんにとっての天国かな。
「みなのものー! 『すごくかわいい』様のお出ましだぁー!」
「おお! 『すごくかわいい』様! どうぞこちらへ!」
私は『すごくかわいい』様らしい。
なんかもう、それはいいんだけど、だからまだ授業中では?? これでいいのか特別クラス。
ヘレナ先生に視線を向ければ、いってらっしゃーいと言わんばかりにヒラヒラと手を振られた。いいのか、そうか。いや止めて? ちゃんと教職の自覚持って?
「あ、ソフィア! やっほー!」
「……やっほー」
やっほーて。ネムちゃんこの状況完全に楽しんでるな。
楽しそうでなによりだけど、何がどうして崇め奉られてるの。上級生に頭下げさせてストレス感じないのが羨ましいよ。
私を連れてきた人もひれ伏す人達に混じって「すごかわ〜」「とってま〜」と謎の呪文を唱えてるし。もうなにこれ、ツッコミが追いつかない。誰かこのカオスな状況説明して?
「ごめんねソフィア」
待ってましたッ!!
私が困った時には颯爽と現れ必ず助けてくれる、それでこそ自慢のお兄様です! ありがとうお兄様! 私の救世主さま!
「みんなはしゃいじゃって……。一旦騒げば落ち着くと思うから、少しだけ付き合ってくれないかな」
「分かりました!」
お兄様の言うことは全て正しい。妹はお兄様の言うこと全てに頷くのが仕事なのです!
「ありがとう。ソフィアはいい子だね」
はわ! みんなの前だというのに頭まで撫でて貰えるとは!
今日のお兄様サービス良すぎません!?
普段はもっと人の目は気にされるのに、今日は気にしなくてもいいのですか! ソフィアも甘えて良いのですか!
しかし迷ってる間にお兄様は振り向いてしまわれた。あん、残念。
そしてネムちゃんの影響か、お兄様は少々大仰なポーズを取って、クラスメイトに向けて高らかに告げた。
「ここに尊き二柱は揃われた! 『すごくかわいい』様。『とっても魔王』様。偉大なる魔法を見せて下さったことに、感謝を!」
「「「感謝を!」」」
怖いわ。
意外とノリノリのお兄様が見れて眼福だけど、この謎のノリは怖い。ネムちゃんがまた洗脳とかしたんじゃないかと思えてきた。
「ふはははは! 良い良い! あの程度であればいつでも見せてやろう!」
このメンタル。
ネムちゃん、アナタ大物になるよ。
何故二人は崇拝されるに至ったのか!?
あとがきにしようとしたら長くなりすぎたので次話にします。お兄様のクラスメイトがめっちゃ喋るよ!