授業中の宴
はい、ここでもマスコット就任おめでとー。
普段気安く接しているクラスメイト全員が相手では分が悪かったらしく、凛々しく私の前に立ち塞がってくれたお兄様はろくな抵抗もできずにやり込められていた。
申し訳なさそうに謝るお兄様も美味しかったです。
そして景品たる私が今、どうなっているのかというと――。
「学院でのお兄様の様子は存じませんが、我が家ではいつも私の話を楽しげに聞いて下さいますよ」
「へぇー、いいお兄ちゃんなんだあ」
「ねね、二人でどんな話するの? やっぱり学院の話?」
「そうですね、最近は学院の話が多いです。主に私が話してばかりなのですが――」
質問攻めにあっていた。
ねぇ信じられる? 今ってまだ授業中なんだよ?
教師の目の前で集団授業放棄とかすごいよね。これがヘレナ先生じゃなくてうちのクラスの担任だったらと思うとガクブルものだよ。
「なあソフィアちゃんっ! ズバリ、ロランドのどこが好きなんだ!? 勉強ができるところか? それとも顔か!?」
「全てでしょうか」
「なん……だと……っ」
「本当にお兄ちゃんが大好きなんだねえ」
「ええ、大好きです」
「ふわあっ! そ、そんな満開の笑顔見せられたら、こっちが照れちゃうよぉ〜っ!」
男子は何故か崩れ落ち、女子がキャーキャー言ってるけど、同じ言葉を聞いたであろう肝心のお兄様は優しく微笑むだけだ。ううむ手強い。普段からちょっと好き好き言いすぎたかな。
「それってそれってお兄さんとして? それとも、まさか異性として!?」
「いやいやまさか! 普通に尊敬出来るお兄さんってだけでしょ! ……で、実際どうなの?」
「うふふ。……秘密、です」
「「「きゃーっ!」」」
やっぱり女の子は恋バナしてこそだよね。
お姉様が家を出てからそういう話をする機会がめっきり減ってたからとても楽しい。マーレはほら、あの子の恋ってまるで進展しないから。
「ロランドォ!!」
「……なに?」
女子たちと盛り上がってると、いつの間にか崩れ落ちてた男子が復活してお兄様に詰め寄ってた。
すわ暴力沙汰かといつでも魔法を使えるように準備を整えるも、彼は詰め寄った勢いのままお兄様の目前で突然座り込みパタリと身体を折り畳んだ。
すごい、スライディング土下座初めて見た。
「妹に愛される方法を教えて下さい!」
「そういうこと考えるからダメなんじゃない?」
「ぐはぁ!!」
わぁお、土下座の体勢から予備動作なしで吹き飛んだよ。芸人さんかな。
いいなあお兄様のクラス、楽しそうで。
うちのクラスも割とノリはいいけどイマイチ積極性に欠けるというか、芸人さんみたいにクラス中の雰囲気を盛り上げる人がいないんだよね。
仕方なく私がその役を担うこともあるけど、私だってできれば見て楽しみたい派だし。
人気的には王子様以上の適任はいないんだけど、あの王子様だしなあ……。
そもそも王子様の目を気にしてみんなはっちゃけられないところもあると思うし。難しい問題だね。
「そ、そんなこと言わずに……なにかヒントだけでも……」
ゾンビのように床を這いずる芸人さん。
床は専門の人が掃除してるだろうけど、躊躇い無く身体を張れるその根性は賞賛せざるを得ないね。あとで助言する時にはオススメのお菓子屋さん情報も付けてあげよう。
あまりにも情けない姿を見て流石に憐れに思ったのか、お兄様は少し考える素振りを見せた後。
「そう言われてもな……。普段からお姫様のように大切に扱う、とか?」
――おひ、めさま。
「わっ、ソフィアちゃん顔真っ赤!」
「わーかわいい! あっ、顔隠さないで! ほらお姫様、顔上げて!」
「魔法を使ってる時は凛々しくも見えたのに、照れるとこんなに可愛いだなんて……この可愛さはもはや罪ね!」
「ロランドォ! ズルいぞ! ソフィアちゃん俺にくれ!」
「ロランド! いやお義兄様! 俺の領地、良い所だって言ってたよな!? ソフィアちゃんは是非俺の嫁に!!」
「寄るな! お義兄様って呼ぶな! ……ソフィアへの求婚は家を通してくれれば、ちゃんと全部断ってやるから」
「断んのかよ!! このシスコン兄貴!」
「なあソフィアちゃん、子犬とか興味無い? こないだウチのが産んでさ、すっげーかわいいから良かったら見に来ない?」
「えっなにそれ見たい! アンタのとこのって白くて大きい子だよね? うわちょーたのしみー」
「お前には言ってねぇよ!」
「ふはははは待たせたな皆の者! 我の為に歓迎の宴を催しているとは良い心掛けである!!」
「うわなんか来た! えっ、不審者!? ちょっとヘレナちゃーん!」
ねぇ信じられる? 今ってまだ授業中なんだよ?
もうね、阿鼻叫喚。
「(ネフィリムさんが扉の前で戸惑っている……当然よね。自分たちの先輩がまさか、授業中に騒ぐような、って普通に入ってきた?えっなにそのつばの広い帽子と外套は。さっきオドオドしてた子よね?高笑いなんかして、随分とキャラが違うような………………あの喧騒の中に普通に混ざれるなんて、すごいわね。……まあ仲良くやれてるみたいだし、なんでもいいか)」
ヘレナは考えることをやめた。