綺麗な女の子の作り方
魔法の授業だけ、上級生の特別クラスに混じって学ぶことになった。
これは大変なことだ。
何が大変かって、具体的には普段クラスメイトに見せるような素に近い私が出せないこと。だってお兄様が見てるから!
もちろん私は普段から超絶かわいい。そこは心配してない。
ただし顔だけ、という注釈がつくかもしれないが。
客観的に見ても……まあみんなと同じくらいにはかわいい。はずだ。
少なくともアイドル並みの容貌の集団の中で暮らしていて、劣等感を抱かない程度には自信がある。
まあ顔が良ければ身体もね、まあね。
幼い女の子が好きだという人がいればそちら方面には自信を持ってオススメできる慎ましく愛らしい肢体ではあると自負しているが、一般男性にとっての女性的魅力に溢れた身体であるとは到底言えない。残念ながら。誠に残念なことに。
愛らしく慎ましい身体は未だ成長の余地を残しているので未来に期待してもらいたい。
とにかくそんなかわいい私が、素が出せないという条件の中でお兄様に「やっぱりソフィアが一番可愛いな」と思わせなければならないのだ! それはつまり、素でかわいい、天真爛漫さが売りのネムちゃんよりもかわいくあらねばならないのだッ!!
まあ素が出せないのはどうでもいいんだけど。
学院では素に近い私であろうと決めたのに、早速その決意が通用しない場所ができてこれからの自分の振る舞いを再確認する必要が出てきたってとこかな。
そもそも天然モノのネムちゃんと素のかわいさ勝負して勝てる気がしない。お兄様に素を出せるわけもないしね。
人は誰だって、場所や相手で態度を変えて、本当の自分を隠しているものだ。
はっきり言って私の内面はかなり汚い自覚があるけど、もしも私が素を晒したとしても、そのくらいでお兄様に嫌われることはないとも思ってる。
お兄様の意思を尊重して封印してた記憶が《リセット》の魔法によって掘り起こされて。
お兄様にだって私に見せない、見せたくない内面があることを知った。
だから。
……多分、だけど。
私の黒い内面を知ったら、お兄様は安心するんじゃないかな。
自分だけが汚いんじゃない。
みんな汚い自分を隠して、それでも綺麗であろうと努力してるんだ、って。
あ、ここでの「綺麗」ってのはもちろん私の事ねっ!
それで、内面を晒しあった私たちは、お互いにお互いの秘密を知ったことでより親密な関係になって、その特別な相手に向ける感情は次第に恋情へと変化していき……。
っていう展開もありうると思うんだよね! 割とマジで!!
そんなのも魅力的かなーとか思ったりもするよ?
「あまぁい誘惑に身を委ねちゃいなよYou! お兄様、手篭めにしちゃえYO!!」って心の中で陽気なラッパーが無責任に踊り狂ってたりするよ?
でもさー。
女の子はいつだって、好きな人の前では一番綺麗な自分を見せたいものじゃん?
許してくれるからって、甘えられないじゃん。
汚い自分のままで好きな人の隣に収まるなんて、私が耐えられない。
好きだから、甘えたいから。
だから貴方に見合う綺麗な自分になろうと頑張れるんだよ?
ねぇ、お兄様。
貴方の目に、私はどんな風に映っていますか?
かわいいですか? 綺麗ですか?
ちゃんと貴方の理想のソフィアに成れていますか?
私が綺麗になるのは貴方に見て欲しいからなんですからね。
そこのところ、しっかりと理解してくれないと。
……ダメですよ?
◇
「……ソフィア、雰囲気が変わったかい?」
「いえ。私はいつも通りですよ?」
うむ、完璧。
やっぱりラブラブお兄様妄想モードを発動させればどんな状態からでも一瞬で綺麗なソフィアちゃんになれるね。お兄様愛に勝るものなし!
少し前までの女子高生モードのかるーい私は既に存在しない。
お兄様のソフィアはいつだって綺麗でかわいいのです!
外面だけではまだ足りない。女の子は魂で「かわいい」を演技する。
生まれながらの女優なので。はい。
いや詐欺師じゃないです。ホントですってば。




