女の子はメルヘンチック
ネムちゃんの先生に会うのは難しそうだと判明した。
ダメなら仕方ない。
と、諦めるとでも思ったか!
直接がダメなら搦め手じゃー!
「じゃあ、ネムちゃんが魔法を教えてくれない?」
「ネムが?」
あっかわいい。
なんか今、姑息なこと考えてたはずなのにネムちゃんの笑顔見たら忘れちゃった。
でもいいや。忘れちゃうってことはその程度のことだよね。
「ネムが教えるのはー……? ダメ? だった気がする?」
「気がする?」
この子、仲良くなるとめちゃくちゃかわいいの。
自分の名前を一人称で呼ぶのってね、わざとじゃダメなんだよ。
無自覚。
幼いからこその無自覚。これね。
これがかわいい。すごくかわいいんだよ。癒される。
「忘れちゃったから、今度先生に聞いてくるね!」
そんなかわいい子に先生と呼ばせ慕われている賢者。
これもう事案じゃないかな、大丈夫かな。
ネムちゃんはとっても素直で純朴な子だから心配だ。
探知系の魔法使ったら感知されるかな?
なんとかして相手に悟られずに実情が分かるといいんだけど……。
あっ、今閃いちゃった。
「ありがとう。ところでネムちゃん、ぬいぐるみは好き?」
我が家にはスパイにうってつけの人材がいるじゃん。
「うん? ふはは、ぬいぐるみとな! アレは依り代に最適でな! 我が根城にも多数配備されているのだ!」
良かった、ぬいぐるみ好きらしい。
あとはどうやってぬいぐるみを賢者先生の元に潜り込ませるか考えないと。
……んー。いくつか案はあるけど、どうしようかな。
まあ適当でいいか。
最近失敗続きで臆病になってたけど、臆病になろうが普段通りだろうがダメな時はダメなもんだし。
まずは失敗を恐れずにやってみよう。で、ダメだったらその時にまた考える。
復活の早さには自信がありますので!
「実はね、うちにメリーさんっていううさぎのぬいぐるみがいるんだけどね。最近野鳥に狙われて怖がってるの。対策をする間、少しの期間だけ預かって欲しいんだけど、お願いできるかな?」
「ふむ、我が魔王城で匿わせて欲しい、と。よかろう!」
とはいえ、失敗前提のつもりがスムーズに事が進んじゃうと、それはそれで戸惑うよね。
本当にその説明でいいんだ。言った私ですら「頭メルヘンかよ」とか思うのに。
まあ、ネムちゃんがいいならいいんだけど。
純粋な子を騙してるみたいで微妙に罪悪感あるな。このダメージの受け方はさすがに予想外だった。
「ありがとう。今度連れてくるね」
「うむ! 屈強な戦士にして返してやろう!」
ぬいぐるみをか。なにそれ、逆に見たい。
でも連れてくる予定のメリーは女の子だし、もし仮に、万が一、何かの間違いで屈強な戦士になって帰ってきたとしても私が受け入れられない気がする。
というか屈強な戦士ってどんなだ。
腹筋の割れたうさぎのぬいぐるみになったりするのかな。それとも目元に強敵と戦った時にできた傷跡みたいのが増えてたりするのかな。
試しに想像してみたら漂う風格がぬいぐるみのソレじゃなかった。こんなメリー嫌だ。部屋の中が常在戦場みたいになっちゃう。
「戦士にするのはやめてね、女の子だから」
それに戦士枠は念動式稼働全身甲冑ヴァルキリー様で十分だしね。
あ、でも魔法ならありかも。
浮遊して透明化して人語を操り、敵の索敵に特化した魔法少女のマスコット的な。うん、いいかも。
メリーたちに自我が発覚した当初は自力で動けるようになるとフェルたちとケンカしそうだったけど、もう長い付き合いになるんだし大丈夫だよね。最近は文句も聞かなくなってきたし。
それにフェルたちもなあ。
学院に連れてくることも考えたんだけど、そもそもフェレットと同等の愛くるしい見た目をしたフェルとエッテに囲まれて、真面目に授業なんか受けられるはずがない。
その問題を置いておくにしても、ペット同伴とか普通はダメだよね。先生に怒られちゃう。
その点、ぬいぐるみならどうか。
ペット同様、かわいくはある。が、分類上生き物ではない。
あれはうごくぬいぐるみだ。
魔法少女たちはマスコットキャラクターを学校にも連れてきているし、見つかっても軽い注意で済まされる。でっかいアクセサリーみたいなものだ。
つまり、ペットはなしでもぬいぐるみならアリ。合法。
これは、くるんじゃないか?
――空前のぬいぐるみブームが。
きません。