追撃アンド追撃
怖いって言ってるのにミュラーが止まってくれない。
だから、奥の手を使うことにしました。
できれば穏便に済ませたかったんだけど、止めてくれないんだもん。仕方ないよね。
さあ、この呪文で止まるがいい、狂戦士よ!
「これ以上続けるつもりなら、ウォルフに泣きつきます。ミュラーにいじめられたから助けて! って言っちゃいます」
「なっ、それは卑怯よ!!」
はーっはっは! 戦いに卑怯もへちまもないのだよ! ていうかいじめられてるのは事実だしね!
ミュラーの足が止まったので、ようやく私も恐怖の追撃から解放された。あー疲れた。
いやはや、ウォルフ様々だね。
ミュラーが恋する乙女で助かった。
「……残念だけど、今回はここまでかしらね」
次回とかいらないけどね。
それにミュラー、絶対手加減忘れてたでしょ。
最後の方とか先生と戦ってる時並の速さだったよ。勘弁してよね、こちとら庭師さんに手ほどきを受けただけの初心者なのにさ。
「でも試合形式だから、せめて有効な一打がないと終了とは認められないのだけど。どうする? 私に打ち込んでみる?」
そうか、試合って一発当てないと終わらないのか。
というかそれ明らかにもう一戦するつもりだよね? その手には乗らないよ。
それにいくら強いからって、女の子を叩くのは気が引けるし。
男ならいくらでも叩きのめせるんだけど、女の子は……ねぇ。
純粋に女の子が痛そうなのが見たくないってのもあるけど、女子の恨みは、ほら。陰湿だから。
私ってば平和主義者だし? みんなで仲良く出来たらそれが一番だよねー。
「じゃあ、私に当てて下さい。かるーくでお願いしますね」
「分かったわ」
そして、やぁー、と形ばかりの、あまりにも遅い大振りでミュラーは私の頭を軽く小突いた。コンと軽い音が鳴る。
何故頭を選んだ。私がチビだからか?
「ん?」
ミュラーが首を傾げるのを見て私も遅ればせながら気付く。
体の防御力調整するの忘れて今変な音鳴ったね。バレたかな? 平気かな? 一応今からでも切っておこうかな。
その考えが間違いだった。
「せいっ!」
ガッ!
「いったああぁぁあああ!!?」
ちょ、なんで今叩いたの!? しかも結構本気で!! これ絶対頭へこんでるってマジ本気で痛いんですけど!!!
「あ……あら?」
あらじゃないよ!! 何この子マジ狂戦士なの!? くっそ痛い! ダメこれ! とりあえず治すのが先だ! 《治癒》! 《治癒》ちゃん早く仕事して!!
……はぁはぁ、やっとちょっとは落ち着いた。
「だ、大丈夫?」
「……大丈夫だと思うの?」
ひっ、と悲鳴が聞こえた。
うん、我ながら冷たい声だったね。ヤバい、自分で思ってるよりもムカついてるわこれ。
あ、しかもなんか垂れてきたと思ったら頭から血が出てるじゃん。うーわマジかー。
これがホントの、頭に血が上ってるってやつだねっ☆ ……だめだわ、今ホント、楽しい気分になれない。ジクジクした痛みが不快さを自覚させてくる。
なんでこんな羽目に、って。よくもやってくれたな、って。思考が流れそうになる。
人を恨むとか、楽しくないから嫌なんだけど。
つーかなんなの? 昨日からなんなの? 私本当に呪われてるんじゃないかってくらい不幸に見舞われてない? この世界のお祓いはどこで受ければいいんだ、教会かな?
「おい、大丈夫か!?」
え、王子様なんでいるの?
あ、ヤバい。王子様が来たせいか注目集めちゃってる。ミュラーが涙目だ。いや今決壊した。ボロッボロ泣き出した。
「ご、ごめんなさい。私、あの、ごめん。ごめんね、ソフィア。ごめんんん……」
……はぁ。
正直、頭思いっ切り叩かれたことには文句のひとつも言いたいけど。一応、悪気は無かったみたいだし。本人も反省してるみたいだし。
しょうがない、許してあげよう。
「ミュラー。私は大丈夫だから、泣き止んで? ヒース様。先生を呼んできていただけますか?」
「あ、ああ……だが本当に大丈夫なのか? 血が……」
「少しクラクラしますけど意識はしっかりしてますから。だから今は、先生を」
「分かった。直ぐに呼んでくるから待っててくれ!」
王子様が先生の元に走っていくのを見送る。
えーっとあとは、治療を受けるまで身体強化の防御機能を復活させて、泣いてるミュラーを慰めて、オロオロしてるカレンとネムちゃんのフォローして……。
うう、痛みで集中しずらい。
こんな時にエッテがいてくれたら一瞬で治してくれるのになぁ。治癒魔法って苦手なんだよ。
でもやっぱり使えた方がいいよね。
家に帰ったら治癒魔法の練習もしなきゃ。あれ、痛いんだよなあ……。
「押すな!!」って書いてあるボタンがあったらミュラーは躊躇いもなく押しそう。




