魔物について知ろう
悔しいけど山賊達の話は面白かった。
賊という言葉には盗むという意味がある。
では山にいる賊であるところの山賊は何を盗んでいるのか?
その答えは魔石だった。
しかも盗む相手は神様らしい。
神から盗みを働くとか大胆不敵すぎるとも思うが、団長さんに言わせれば「森の恵みを頂くのと同じ事」だそうだ。
そういわれるとそんな気もしてくる。
魔物は神様が作った必要悪。
材料は悪意と魔石。
恨みや憎しみなんかの悪い感情は強いエネルギーを持っていて、放っておくと世界が滅びかねない。
それを防ぐために神は自らの肉体の一部を切り離し、悪意の拠り所を作ることで拡散を防ぎ、人に自らの罪と向き合わせたという。
罪を認め、乗り越えたものに与えられる神の欠片。
魔石。
人の身と変わらぬ魔力を秘めた聖石。
神への感謝を忘れず日々を過ごす私達への小さな贈り物。
だから魔石をお金に変えるのは神様の望みに沿うこと。売られた魔石が魔道具になりみんなの暮らしが良くなっていく。
嗚呼、素晴らしきは神のご意志。
ありがとう、ありがとう神様。
高らかに歌い上げ、レニーが大袈裟に感謝を捧げるポーズをしていた。
ツッコミ待ちっぽいから放置しておこう。
レニーのポーズはともかく、あの気持ち悪い見た目の魔物に壮大な裏話があるのは分かった。山賊がやっぱり大事な職業なのも分かった。
やたらと神様を持ち上げてるけど、神職だから? それともみんな同じような認識なのかな?
ともあれ、そんな神様の欠片である魔石を採ってるから、自らを戒める為に賊を名乗っているんですって。
私の中で山賊の株がうなぎのぼりしてる。
清廉っていうか、世界の為に奉仕してる感じが正に神職。神様教の熱心な信者っぽくてちょっと怖いけど、話の通りの人物? 神物? なら崇められるのは分かる。
さすが神様って感じだ。
で、そんな正義の味方な山賊マンの皆さんも自然発生する魔物の対処には苦慮しているそうだ。
リスクを抑えて挑める山賊産の魔物と違って天然物の魔物は場所もサイズも選べない。
だから水や空を住処にする生き物を模した大型の魔物が発生すると海賊や空賊などに出動を要請し、逆に森に潜む魔物は山賊が狩る。
そうして得意分野を伸ばすことで脅威に対抗してきたという、長い歴史を感じる大変興味深いお話でした。
まぁ面白い話だったけど私の興味はすでに魔石の活用に移っている。
スワン兄貴のかけっこ連勝記録〜山猿編〜だったら続きは聞きたいが、山賊さん達の神様賛歌はちと辛い。
というかお母様が有名な研究者の一人でその関係で知己を得ていたらしい。
魔石ならまだしも魔道具のことはそちらに聞けと言われてしまった。
そんな話をしていると扉が音を立て、スワンの兄貴が現れたので思わず頭を見てしまった。
あのバンダナの下に猿の形のハゲがあるのか……まだ若いのに不憫な……。
憂いを帯びた私の顔を見てレニーが吹き出す。同時に団員達の忍び笑いと団長の呆れる声が耳に届いた。
はっ! またからかわれた!?
振り返ってぐぬぬとレニーを睨みつけ抗議を示すと笑顔で親指を立てられた。
ねぇ、それどういう意味? まさかいいリアクションだったよ! って意味じゃないよね?
「ちょっと貴女」
ビクンッと、声が響いた一瞬で視界の全ての動きが止まった。
私のでも、レニーのでもない、第三者の女性の声。
今までの空気のような存在感はどこへやら、今は極寒の吹雪に晒されている心地がいたします。
さぁ、レニー? なんとかして役目でしょ?
お母様から顔を背けたままレニーに目で訴える。訴えかけまくる。
大丈夫だって言ったよね? 私で散々遊んだよね? 任せてって言ってたもんね?
私の無言の訴えは届いたようで、ゴクリと喉を鳴らすと意を決して一歩を踏み出した。
がんばれレニー! 私の安寧の為に!
「あ、あのっ、アイリス様!」
「レニーと言ったかしら。今は黙っていて下さる?」
「かしこまりましたっ!」
レニーちゃん、君にはがっかりだよ。
だから言ったじゃん、大丈夫じゃないって。それを無理矢理さー、私は嫌だって言ったのにさー。
目で恨み言を連ねて現実逃避していた私の肩に、そっと手が置かれる。
「貴女は、こっちね」
掴まれた手は、見た目からは想像もつかないほどの力が込められていた。
お母様、痛いです。
「スワンさんは気が利く人なんだけど心労も多いみたいで……」
「くっスワンが悩んでるのを知っていながら、オレァ猿の顔に見えるなんてからかっちまって……」
「兄貴がバンダナを手放さなくなったのはそれからなんス……」
「スワンって、アイリス様を呼びに行った方ですよね?まだお若いのに可哀想……」
(((お嬢様からかうの楽しい)))