習うより慣れろ
世界は違えど、同じ人が生きる世界。変わらないこともある。
その事態を想定して準備を進めてきた。
そう、そのはずだった。
だが予定外とはどこにでも転がっているものだ。
人の関係とは流動的であり、不変なものなどありはしない。
突然の出会い。
その繰り返しで、人の縁は形作られてゆくのだから。
さて、ここで問題です。
出会って一日程度とはいえ、カレンちゃんネムちゃんとだいぶ仲良くなりました。
ここにきて「はーい二人組作ってー」とミュラー先生に言われてしまった私達はどうするのが正解でしょうか?
剣の格好良い構え方を追求してるネムちゃんを放置するのが正しいのか?
何故か一人離れていこうとしているカレンちゃんの行為に甘えるのか?
はたまた社交性の高い私が他の奇数のグループに混ぜてもらうべきか。
その、正解とは!
「カレンさんはネフィリムさんと組んでちょうだい。私がソフィアと組むから」
「は、はい」
ミュラー先生の鶴の一声で組み合わせが決定した。
まあ能力的にはそれが妥当だよね。
三人組で自分が引く以外の選択肢とか取れないし、悩んだふりだけしとけば私が外れるとは思ってた。
でもなあ。ネムちゃんとカレンちゃんはたぶんお互い初心者だからいいけど、私の相手強過ぎないかな? いや先生が敵わない時点で対等な相手がいるとも思えないけど。
「そういう事だから。よろしくねソフィア。手加減はしてあげるから」
「お手柔らかにお願いします」
そもそも未経験者ばかりなんだから、初回の授業なんて基礎固めとかでいいんじゃないかな。
経験者な生徒を先生役にするのはまだ分かるんだけど、女子に教えるのに女子のミュラーがつくのも分かるんだけど、教える側の基本方針が「習うより慣れろ」で統一されてるのはどうかと思うんだよね。ここには脳まで筋肉で侵された脳筋たちしかいないのか。
とはいえ、それを提唱する人たちが強いのも事実。
いまの私は教えを乞う立場ですし、先生様の仰ることには従いますとも。ミュラーと戦うのも楽しそうだしね。
あと魔法でズルしても余裕で負けそうだから安心ってのもある。
身体強化をフルに使えば攻撃を見切るくらいは出来るだろうけど、今回は動体視力の向上くらいに留めておこうかな。別にいい勝負する必要も無いからね。
「……ふふっ」
「? どうかした?」
剣を構えたら何故か笑われた。
庭師のポールさん直伝の構えはなにかおかしかったかな。
凄腕剣士の嗅覚が私の師が庭師だと見抜いたとかだろうか。だとしたら庭師の弟子の実力見せちゃうよ。ポールさんはすごいんだから。
「カイルが一目置く理由が分かった、というところかしら。やはり貴女は他の方とはモノが違うみたいね。私の本気を見た後は、殿方だって相手をしてくれないのよ?」
ああ、そういうことか。
たしかにあの迫力ある試合を演じたミュラー相手に戦えと言われて喜ぶ女の子は普通いないよね。失敗したかな?
でも試合中の二人、楽しそうだったし。
先生が剣術はすごいんだぞう! と自慢したくなるのもわかる、良い試合だったからね。触発されたのかも。
「そうなの? ミュラーの試合、格好良かったから自分も真似したくなっただけなんだけど」
「ふふ、光栄ね」
わあ、穏やかで素敵な笑顔。
その調子でもう少し戦意を下げてくれると嬉しいんだけどな。
「よーし! みんな相手は決まったか!? 準備はできたか!? では模擬戦、開始っ!」
先生の合図によって、あちこちで生徒たちが剣を打ち合わせる音が響く。
「では私たちも始めましょうか」
そう言って、ミュラーは構えた。
ただそれだけの動作で空気がガラリと変わる。
自然とミュラーに集中させられている。それ以外が意識に入らない。
「いきます」
動き出しは声と同時。
呼吸の隙を突くようにして、ミュラーの剣が伸びてきていた。
なお人数的な事情と本人達の希望により、残り半分の女子の担当は王子様になりました。




