普通が普通じゃない人たち
反省したっぽいネフィリムさんがおずおずと、だけど聞かずにはいられないという興味津々な目で問いを発した。
「じゃああの、ソフィア。さっきの魔力消したの、なに?」
さっきというと、暴走しそうだった魔力を収めた件か。
なにと言われても困る。
ただ単に魔力を……ああ、そうか。魔力は自分のを使うのが一般的で、大気中やら地面から持ってきたり返したりは普通しないんだったね。
「あれは魔力を薄くして、大気に溶け込ませたんだよ」
こんな風に、と魔力視があれば見えるだろう程度の魔力を掌に集め、ゆっくりと解いてゆく。
ね? とネフィリムさんを見れば、その目はキラキラと輝いていた。
「おぉぉっ!? すごいすごい! ソフィア、すごいのだ!」
なんだかすごく感心されてしまった。
偉そうなのもアレだけど、こっちの口調も幼すぎて調子狂うな。
でも実際、そんなに大したものでも……と思ったんだけど、ミュラーさんの反応を見ると大したことなのかもしれないと思い直した。なんかすごい驚いてる。
なんでだろ? カイルとウォルフは驚いてないじゃん。
「今の、なに? 魔力の塊みたいのが見えたんだけど!?」
おう、近いデス。びっくりした。
そんな迫ってくるほどの事なのかな。
「ソフィア、すごいね! あんなの先生だってできないよ!」
「単に魔力集めただけなんだけど……」
魔力の移動なんて基本じゃないの?
分からん。もう何がすごくて何がすごくないのか全然分かんない。火を出すのだって魔力動くじゃん。みんなやってるじゃん。
なんとなく、もう一度魔力を集めてみる。
それだけで二人から、おぉーっと歓声が上がった。
男二人はそんな私たちを見てるだけだ。こっちも謎だね。
ほっ、と力を込めて、魔力球をゆっくりと身体から離してみた。
またしても歓声が上がった。
今度は離したまま、右に。その次には左にと動かしてみれば、二人の顔も同じように動くのが面白い。
面白いんだけど、これ想像以上に疲れるわ。細っこいの伸ばすだけとか、その先で魔力球を数秒生み出すだけなら楽なんだけど、魔力が散らないように集めながら動かすのは意外と難しかった。
「今のって光の初級魔法か? にしては光も弱いし、二人の反応も……」
「……なにか凄いことをしてるのは伝わってきたよ。分からないのが残念だ、本当に」
カイルとウォルフの反応が薄い理由わかった。この子ら魔力視してないんだ。
そうだよね、お母様が「普通は使える」的なこと言ってたけど、初級魔法があの程度のレベルなのに、実質視力限定身体強化みたいな魔力視だけみんな使えるとか意味不明すぎると思ってたんだ。
まあここにいる過半数が使えるんだから、お母様が言ってたとおり、大人ならみんな普通に使えるんだろう。
でもそうなると、やっぱりネフィリムさんの使った精神異常系の魔法の異質さが際立つ。
あれ、私の禁呪レベルだとおもうんだけどなぁ。
【探究】の賢者様とやらがすごいのか、それを使えるネフィリムさんがすごいのか……。
反対の手に作ったもうひとつの魔力球を見て目を輝かせるネフィリムさんを見ながら、私はそんな事を考えていた。
賢者様の指導を受けてる時点でネフィリムもソフィアも普通じゃない。
特別クラスの半数という数字も普通じゃない。
そんな平常運転。