魔王様の言い分
私の不調の原因は自称魔王っ子と判明した。
そもそも精神を回復させるような魔法なんてそう簡単に使えるわけないと思ったんだ。
できるとするなら、それは「解呪」。
自らが発動した魔法の効果をを取り消す。それが答えだ。
さて、どうしたものかな。
ネフィリムさんが元凶だと理解してから口端が自然と釣り上がってくるのが止められないんだけど。
ニヤリなんて状態を通り越して、満面の笑みになってるんじゃないかな。どうかな。
自分でも驚いてるんだけど、怒りって、振り切れると笑顔になるんだね。
表情につられてかな? 今ね、すっごく楽しいんだ。彼女にどうお礼をしたらいいかと考えるだけで、身体中の魔力が暴走しそうなんだ。ねえ、分かるかなあ? 分かるよねぇ? うふふふふ。
「ひええぇっ! 待って! ちょっと待ってぇ! わざとじゃないから! ほんとにわざとじゃないのぉ!」
「お、おいソフィア、落ち着けって」
うん、落ち着いてるよ? これでも頑張って、落ち着いてるつもりなんだよ?
でも……ダメだね。
これって呪いだか回復だかの影響じゃないかな? ってくらい、身体中の魔力が不自然に乱れて荒れ狂ってるんだよね。
それで目の前には、全ての元凶。諸悪の根源たる魔王さんがいるでしょ?
これ、抑える意味あるのかなって、思うよね?
「よく分からないんですけど、魔王って滅ぼした方が良いのでは?」
「ごめんなさい! 魔王うそです! 魔王に憧れてるだけの善良な一生徒なんです! 滅ぼさないでぇ!」
うん、キャラ崩壊引き起こす狼狽えっぷり見てたらだいぶ鬱憤晴れてきた。
とりあえず魔力整えとくか。このままだと本当に暴走しそうだし。
そうと決めれば、身体の表面で放電でもしてそうな魔力を力技で左腕に纏めあげて、身体強化を発動。
左腕の強度だけ更に上げて、余った魔力もぶち込む。んで回す。腕の中で魔力をぐーるぐーる回す。
バチバチと暴れ放題荒れ放題だった魔力が落ち着いてきたら、ゆっくりと大気に戻していって、おしまいだ。うむ、完璧だね。
とはいえやっぱり無茶な方法だったのか、左腕が若干ピリピリする。まあこのくらいは我慢しよう。
「それで? わざとでないなら、どういった理由で私に呪いをかけたの?」
あと今更気づいたけど、魔力を圧として放ってた気がする。
やたらビビらせてたのはこれが原因ぽい。
魔王に憧れてるだけの人はともかく、ウォルフやミュラーがめっちゃ引いてるの見て少し落ち着いてきた。うん、感情のままに荒ぶるのは良くないね。
ふう、と思わず零れた溜め息に、偽魔王様が短い悲鳴をあげるのを聞いて、しまった、と後悔する。
こんな場面で溜め息なんてついたら責めてるように取られて当然だ。やっぱりまだ本調子じゃないみたい。
重ねて謝ろうとするのを手で制して、話の続きを促した。
「えっと、呪いじゃなくてね。魅了、幻惑、混乱とか、精神異常系の魔法を色々掛けてみてたんだよ」
呪いも吹いてたのか。
……まあ、「ちょっと試しに」なんて感じで軽く掛けられた魔法に比べれば、嘘くらいかわいいもんだけど。
「待って待って、そんな魔法聞いたことないけど。そんな危なそうな魔法、本当にあるのかい?」
それでね、とネフィリムさんが続けようとしていたところにウォルフが待ったをかける。
それに答えたのは、意外にもミュラーだった。
「いえ、聞いたことがあるわ。貴女、もしかして【探究】の賢者の関係者?」
「おお! 先生を知ってるの?」
嬉しそうに反応しているところを見ると、ミュラーの推測は当たっているんだろう。
それはいいんだけど、この流れ、その賢者様のお話聞かなくちゃいけないんだよね?
私に魔法をかけた理由が知りたいだけなのに、どんどん話がズレていくね。
怒りはねー、時間を置くと薄れるんですよー。
気休めだけどねー。




