魔王様が現れた!
……魔王っていうか、魔女だよね。
そう思ったけど、突っ込むほどの気力は無い。
でもちょっと元気出た。ありがとう、見知らぬ自称魔王さん。
「「「………………」」」
カイル達は唖然としてた。
その様子を満足げに眺めた自称魔王ネフィリムさんは、クックックと可愛らしい声で笑い、またマントを翻した。
「どうやら我の威光に声も出せぬらしいな……だが、それも仕方の無いことか。我――」
「同じクラスの子だよな? 特別クラスの」
カイルのインターセプトに、ピシリと固まるネフィリムさん。
またまた翻そうとしていたのか、握られたマントが中途半端な位置でヒラヒラと揺れる。
「教室ではそんな変な格好していなかったわよね? どうしたの?」
「ふっ。これこそが我が真の姿。教室での姿は仮初よ」
あ、再起動した。
本当にクラスメイトだったらしい。こんな濃い人いたかな。
「それはどうかな……」
頑張って思い出していると、ウォルフが一歩踏み出して、ネフィリムさんと同じような片手で顔面を隠すポーズを取っていた。
「あの時俺が聞いた『成績さえ良ければモテる』という言葉。あれほど人の心を動かす言葉は、本心からだと思っていたんだが……違ったかい?」
あれか。
そう言えば王子グループの女の子見てたのもこの子じゃないか? 帽子だけで大分イメージ変わるな。
ネフィリムさんはウォルフの不敵な顔を見つめて、ふ、とその口元を歪めた。
「分かる者には分かる、か……。いかにも。仮初の姿では、溢れる我が力を完全に御することはできないのだ」
やれやれ、と肩を竦めるネフィリムさんに、ウォルフがおもむろに手を差し出す。パシッと握手する二人。
しばし見つめ合い、ニッと笑って。
握りあった手を顔の高さまで上げて、再度固く握り直していた。
「お主、名は」
「ウォルフとお呼び下さい、魔王様」
なあにこれ。
私たちは完全に置いてけぼりだった。
だけど、ウォルフが女の子と仲良くしてるのを見逃せない人がここにはいる。
「で? 結局あなたは何の用なわけ?」
若干敵意の篭もった口調で、二人の握り締めた手を解きながら、ミュラーさんが割り込んだ。
その気迫に魔王様はちょっとたじたじしながら、
「実は……えっと……、そう! 調子悪そうなそこの娘を癒してやろうと思ってな!」
と私を指さした。
見知らぬ人にまで心配されるほどだったらしい。人の優しさが身に染みる。
「そんなことができるの?」
「うむ、我は魔王であるからな。そのようなこと造作もない」
訝しげに問うミュラーに、ネフィリムさんは胸を張って答えた。
「じゃあ頼む」
カイルに背中を押されて前に出る私。
私なんかのためにとも思うけど、私如きが口を挟む権利はないからありがたく治してもらおう。
「あの、ご迷惑かけてごめんなさい」
「気にするでない。元はと言えば――い、いや、なんでもないぞ。では………………」
何かを言い淀んだ後、ゴホンと咳払いをしてからにゃむにゃむと呪文らしきものを唱え始めた。
しばらくして呪文が途切れると、チラと顔を窺ってきたので首を傾げてみる。それを確認すると、ネフィリムさんは再度、呪文を唱え始めた。
そんなことを何回か繰り返していると、小声で「やっぱり解けない……」と言っているのが聞こえてきた。
どうやら罪悪感に苛まれているようで、私の方が申し訳なくなってしまう。
「なあ、まだ癒せないのか?」
痺れを切らしたカイルが問いかけると、ネフィリムさんは難しい顔をして唸った。
「うむ。面倒な呪いが掛かっているようだ。一筋縄ではいかん……」
呪いとな。
そうか。私、呪われてたのかー。
「呪われた聖女」なんて、すごくそれっぽいフレーズだよね。魔王もいるしね。




