後悔を吹き飛ばすものは
「おい、いい加減立ち直れよ」
「もういや……いいの……私なんか消えた方がいいの……」
王子様に全身全霊で詫びを入れた、あの後。
私は死んでいた。
授業の内容も先生の話も覚えてなんかいやしない。
王子様は非礼を許してくれたけど、私は自分の行いが許せなかった。
王子様に忠告してあげよう? 全然反省してないじゃん?
全部おまえの妄想だよおおおおおぉぉぉ!?
恥ずかしいっ! 恥ずかしすぎるっ!
反省してないのは私だよ!! なんで私はこうも学ばないんだ!?
勉強ができたって、魔法が使えたって、未だに階段から足滑らせて落ちかけたり、お風呂で寝ちゃってお母様に怒られたりするポンコツこそが私でしょう!? 人様にお説教とか万年早いわ!!
消えたい。消えてしまいたい。こんな私が皆様の視界に映ることすら申し訳なくなってきた。
もういっそ家に引き篭って、二度と人様に迷惑をおかけしないように一生部屋の中で暮らした方がいいんじゃないかな。
家族には迷惑をかけるけど、家でひっそりと魔道具の開発でもして。
フェルやエッテと一緒に、メリーやマリーみたいな意思持つ人形に囲まれて暮らしたら、それでいいんじゃなかろうか。幸せなんじゃなかろうか。
「私もう学院やめる……」
「馬鹿な事言ってないでほら、帰るぞ! 足動かせ!」
カイルに手を引かれてもなお、私の足は遅々として進まない。
……カイルにも、今まで迷惑かけてきたよね。
ごめんね、こんなバカの面倒みさせて。私なんかその辺に転がしとけばいいから。
「うわっ、おまえ泣いてんのかよ!?」
「……これは」
「重症ねぇ……。ほら、これで涙拭きなさいよ」
ウォルフとミュラーが何か言ってる。
ううっ、二人もごめんね。こんな私なんかと友達なんて迷惑だよね。嫌な気分になったよね。もう放っておいてくれていいよ?
所詮私なんか、ちょっと優秀なだけの考えなしで、褒められればすぐ調子に乗るし、なんでも出来るからってわがままも許されてる気になってたアホの子なんです。心配される価値もないんです。
これからは人とは関わらずに生きよう。
二度と人様に迷惑をかけることの無いように慎まやかに暮らそう。
と悲壮な覚悟をしていた、その時。
「待つがよい。そこな一行よ」
偉そうな台詞と共に道を塞ぐように現れたのは、魔女が被るような先の折れた三角帽子に黒いマントを羽織った女子生徒。
彼女は大仰にマントを翻すと、右手で顔の左半分を覆い、もう片方の手をこちらに伸ばし、高らかに宣言した。
「我は魔王ネフィリム! いずれ魔界を統べる者!」
――なんか濃い人が現れた。
「実は――」
その言葉の続きを聞く機会を失ったカレンちゃんが不憫すぎる。